同じ空の下で

「……雨月先輩、朱藤先輩、紅二郎さんのことよろしくお願いします」
 深々と頭を下げる涼太に、「まるで恋人というより嫁みたいだな」「ああ、詩守と同じ歳とは思えない程しっかりしている」と共に行く友人達に言われて、少しだけ恥ずかしい。
「まぁ……とりあえず壁除けはくらいはしておきますよ」
「一条」
「先輩、いーっぱい、お土産買ってきてね!」
「……それは出来るかな」
 涼太の両隣にいる結翔と橘の髪の毛を撫でると、片方は真っ赤にして「なんですか」と言い、もう一人は相変わらず嬉しそうに「わぁ~!」と声を上げていた。
「……紅二郎さん」
 たかが一ヶ月。
 そう思いながらも遠く離れた場所にいる、電話も出来ない、そんな状態に涼太は途端に寂しくなる。
「涼太」
「こうじろうさん……」
 ぐすぐすと泣く涼太の髪の毛を撫でてやろうと手を伸ばした。
 けれど、その前に涼太が紅二郎の胸ぐらに手を伸ばし、紅二郎を引っ張る。
 それから、
「……っ」
 涼太が噛みつくようにキスをした。
「……っ」
 周囲から歓声やら、ため息が聞こえた気がしたが、そんなのどうでも良かった。
 呆然とする紅二郎に涼太が泣きながらも笑って、「いってらっしゃい」と言ってくれた。
「……」
 許されるなら連れて行きたいと思ったが、「……九々生、申し訳ないが時間だ」と杏介が告げて、引きずられるように飛行機へと連れて行かれる。
「……いってくる!」
 大声で言った紅二郎の声に涼太は笑った。
 彼の背中が見えなくなるとまた、涙を流した。
「ああ……遠野君、また泣いて」
「涼太~……」
「ったく、たかが一ヶ月でしょうに」
「だって~~」
「おやおや」
 摩耶や瑞雲も混じって、慰める涼太。
 ちなみにその近くで、「はい、ここから先は下心がある人は通行止めです~」と昴が笛を鳴らしていたことを涼太は知らない。
 紅二郎が手慰みに贈ってくれたのだろう、花束に涼太は触れる。
「……ふふ、先輩の髪の毛の色に似てる」
 花には興味ないが、蒼一郎が涼太を慰める為に買ってくれたのだろう。
 紅二郎の髪の毛と、蒼一郎の髪の毛にどこか似ている。
 封の中にはポストカードが入っていて、とても美しい場所だと思った。
 手紙には、今いる場所が綺麗だということ、涼太にも見せてやりたいと書かれていた。
「……っ」
 つらつらとあちらで会った人達の事、大変だけどやりがいがあること、そして、―――早く涼太に会いたいと書かれた文字で胸がいっぱいになる。
 追伸に、歓迎会で仲良くなり、友人になった人から涼太に、と貰ったものを贈ります、と書かれていた。
 手紙を最後まで読み、涼太は何をくれたのだろうかと、贈られた箱を慌てて開けた。
 箱の中にはオルゴールが入っていた。
「……」
 ネジを回せば、美しい旋律が流れる。
「……カノンだ」
 あの日、橘が自分達に聞かせてくれたヴァイオリンの曲。同時にリュンクスがやっと一つになったような気がした夜の曲。
 紅二郎にとってもきっとあの日は特別だったに違いないと思った。
「……でも、なんとなく普通のオルゴールよりも綺麗な気がするな……」
 先輩からもらったものかな、などと思いながら、耳元でオルゴールを聞く、その音に合わせて心音が弾む。  


 後で便箋を買って来よう。そしてあの人に自分も早く会いたいと、言いたいと思った。



おまけ



『紅二郎さんへ』
 涼太らしい文字に心を温かくしながら、日本にいるであろう恋人を思い出す。
『先輩に会えないのはとても寂しいけれど、でもこうして手紙のやりとりをするのはとても楽しいです。』
「……」
『貰った手紙、とても嬉しかったです。俺、オルゴールなんて貰ったの当たり前だけど初めてで、春に貰った指輪と同じくらい大事にします。』
「……ふふ」  嬉しそうにしている恋人を思い浮かべて自然と笑みが浮かぶ。 『結翔や一条、後輩にも聞かせたら褒めてくれました。何故か一条は驚いて、大事にしろって言ってたけど、先輩から貰ったものだから当たり前だよって言うと『それならいいです』って言ってました。
先輩がいないと寂しいと皆思ってくれるのか凄く気をつかってくれます。リュンクスの皆だけじゃなく、火野、藍や翠、大文字、本田、三好も気を遣ってくれている気がします。』
「……」
『そういえば、この前、三好や真田さんに会いに来る猿飛先輩や霧隠先輩にも気を遣わせてしまいました』
「……ん?」
『「紅二郎がいないし、折角だから二人で一緒にラーメンでも食べに行こう」って言われたんですけど、でもその時後輩が行きたいところがあるからと必死に言うので断ってしまいました。
他にも巳神先輩が訓練に誘ってくれたんですが、その時は詩守と二人でカップとソードの合同訓練する約束をしてて……でも、やっぱり先輩の友達はやっぱりみんな優しいんですね卒業してからも俺の事を凄い気を遣ってくれます!』
「……」
『青木先輩や白金先輩もよく電話で大丈夫かって言ってくれるんですよ。あ、そういえば先輩の手紙を持ってきてくれた時に、明宮さんが薔薇の花束をくれたんです。紅二郎さんの髪の毛とちょっと似てて、見てる度に先輩を思い出します。』
「……」
『後輩が先輩に折角だから写真を撮って贈ったらどうでしょう?って言ってくれたんで、恥ずかしいけど写真を一緒に贈りますね!早く、先輩に会いたいです』
「……涼太…」


「……九々生、どうした、顔を覆って…」
「雨月……俺は一日も早く日本に帰らなければならなければならない……」
「意味がわからんが、また遠野関連か?」
「……なんでまだ一週間しか経たないうちに……否、でも涼太は魅力的だから仕方ないのか…?」
「……」
「なんだか面白い事になってるな」
「朱藤」
「しかし、九々生君を見ていると私も早く命チャンやみんなに会いたいな。君もそうだろう?」
 そう言われて、杏介も賑やかな後輩を思い出す。
 シフトの都合上、送る事は不可能だったが、涼太の手紙と共にやってきた二人への手紙には出迎えには来ると書かれていた。


「まぁ、しかし私としては周囲のほうが凄いと思ってしまうね」
「周囲?」
「だって、遠野君はどう見ても九々生君しか目に入ってないのに、懲りずにみんなアタックして撃沈してるじゃないか」
「……そういえば」



『追伸 そういえば後輩と一緒に買い物に行った時にバスソルトを買いました。良い匂いだから先輩が帰ってきてもしも嫌じゃなかったら一緒にお風呂に入りたいです』









 

 先輩が涼太にプレゼントしたのは144弁のオルゴールで滅茶苦茶高いやつという裏設定があります。
 でも買ったというより本当に、オルゴールが実家のプロセクターに気に入られて安く譲って貰ったという設定です。
 雨も歌えばもそうなんですが、なんとなく先輩は年上から好かれるイメージで書いてます。なんとなく