線香花火

高校最後の夏だった。  だからだったのか、ガラにもなく、全員で集まろうと言ったのかもしれない。
 3Lの皆ではしゃいで、8人全員で花火に火をつけた。

「…そういえば、去年もre:flyのみんなで線香花火で競争したなぁ」
「お、本当か?MAYSYでもやったんだぜ」
 そうしみじみと言う宙の言葉に心が反応した。
 見つめていた志朗が目を細めた。
「…シローはまざらなくていいの?」
「うん……もうちょっと見つめてたい気持ち」
 幸せだと噛みしめていたいと言外に言うと、護はまるで理解してるかのように「解るよ」と口にした。
「笑ってる顔を見てると、それだけで幸せだなって感じちゃうよね」
「……うん」
 キラキラと夜空の下、それでもきらびやかに微笑む想い人はまるで星のようだと思う。
「で、線香花火をして一番最後まで残ったら願い事叶うってやったんだ」
「マジかよ」
「愛澤のところは違う?」
「うちのところは勝った人間の言うことはなんでも一つ聞くってやつだったぜ」
「へぇ、それも面白そうだね」
 そうにこにこと笑う宙と心をただ二人は少し遠くから眺めていた。
「…なるほど面白そうでござるな」
 そう言う鈴の言葉に「藤間もやる?」と宙が優しく誘う。
「え……」
 驚いて目を大きくする鈴に対して近くにいた椿は腰をあげた。
「確かにね、そういう勝負事なら面白そうかも」
「雅野も乗り気だね。鳥羽と蛍は?」
 そう言って、お互いの花火をしている姿を写真に撮っていた蛍と霞に話しかけると二人はゆっくりと近づいてくる。
「へぇ、面白そうだな」
「えっと……うん、俺も負けないよ…」
 その言葉に笑って、「おーい、二人とも来いよ!」と手を振って心が志朗と護を呼ぶ。
「二人ともこれ、持って」
「ふふ、二人とも負けたらなんでも言う事聞かなきゃ駄目だよ?」
 そうゆったりとした声で言う宙の言葉。
「それじゃあ、勝ったら皆も何でも言うこと聞かなきゃいけなくなるけどそれでもいいの?」
「いいじゃん、面白そうだし」
 そう好戦的に椿が言うのに対して苦笑する皆を眺めながら護は最後に心を見つめた。
 ならば言ってもいいのだろうか。
 ずっと言わないでおこうと思ったことを。


 線香花火に火につく。


 いつのまにか見つけていた、自分の願いの標。
 こんなに近くで、でも手を伸ばしてはいけないと思っていた。でも、駄目元でこんな勝負に頼って言ってもいいのだろうか。
 ぱちぱちと線香花火に火がつく。


   ――――願いの行方はゆっくりと火蓋が切られた。