この手を離さない

 人から気味が悪いと言われた。
 それは人よりもちょっとぼんやりしてちょっとだけ行動が遅かったり、星を見るが好きだったり、人と違って――――――――


 そっと左目に触れた。


 『そこ』には何も無い。
 かつてはあった。
 いつか宇宙に行くんだと信じていた。
 頑張って、勉強をして、願い続ければ夢は叶うと信じた。
 でも、現実は非道だ。
 最初に見えたのは白い天井。
 次に両親の泣きはらした顔。
 どうしたんだろうと指を動かそうとしても痛くて、起き上がる事も辛かった。
 それから、ちょっとだけ視界が狭いと想った。
 何でだろうかと思った。
 ”『目』はちゃんと開いてる筈なのに”
 それが無い、と知って、
 夢は一生叶わないと知るのはそんなに遅い事では無かった。

 辛くて苦しくて、だというのに容赦なく周囲は人の事を異物だと扱った。
 それは宝石ヶ丘に入っても同じだった。
 輝崎や雅野のように圧倒的な実力があれば違うんだろうけれど、平凡な自分は人から目や性格のこともあって、結局遠巻きにされるばかりで友達と呼ばれる存在はいなかった。


 それが変わったのは、はじまりは中等部二年の春。


 一瞬でまるで別人になったその子から目が離せなかった。
 雅野よりも、輝崎よりも、凄い演技だったと俺には思えた。
 ただ、好きなだけと言えばそうかもしれない。それでも――――――


「俺、すごく感動したよって伝えたくて……」


 言わずにはいられなかった。
 嫌われるかもしれない、また馬鹿にされるかもしれない。 
 それでも、伝えずにはいられなかった。
 それくらい凄かったから。
 ありったけの勇気を振り絞って、その転入生に声をかけた。


 こちらを振り向いた薄茜色の目に自分が映っていた。
 その事に声が震えてないかと不安になった。
 相手に振り払われたらどうしようかと。
 そう思いながら口にした言葉は、余りにも短くて、本当はもっと伝えたい言葉があったのに上手く言えなかった。


 でも、彼は、志朗は――――――


「え……ほんと?あの、ありがと……」
「ううん、べつに……」


 お互い後から思えばもっと上手く会話すればいいのに、でも『友達がいない』自分達にとってそんな会話しかできなった。
 本当は、もっと言いたい事があったのに。
 でも上手く言葉に出来なくて。


  「辺見くん……だよね?」
「う、うん……!」
「昼、いつもどこで食ってる???メーワクじゃなかったら、その……
……一緒に、食べる?」
「うっ、うん!」


 それでも必死で手を伸ばしてくれた。
 その後も志朗とは色々あった。



「宙のことは……好きだよ!だけど、オレはこんな奴で……」
「自分を嫌いだからって、好意を向ける人の価値まで下げるの、やめて。それは傲慢。こっちはこっちの基準で志朗を好きなの。それ、否定する権利は志朗にもない」


 ねぇ、知らないよね、志朗。
 本当はね、ずっと、ずっと、前から、それこそ出会った時から、俺は――――――


 志朗の事が好きだったんだよ。