Eighteen

 出会ったのが4年前。
 あの頃の自分達はとても幼くて、呆然とした目標を浮かべていた。

 お互いに踏み込まず、自分の事は自分でする。それが出来なければユニット解散。
 なんて馬鹿な事を、と今の自分では思う。
 でも、同時に『仕方ないだろう?』と過去の自分を肯定せざるをえない。
 だって想定外だったんだ。
 青柳帝にとって、このユニットが、友人達が、こんなにも愛しくてたまらない、大切で何者にも耐えがたくなるだなんて、誰が予想していただろうか。


 そして出会って、五年目になる春。
 卒業する可愛い後輩を――――

『コスモ、立夏!!俺は二人に卒業記念に一番幸せな結婚式を贈るぞ!!!!!!!!』

――――青柳帝は、拉致した。


 アップルサイダーを口にした百瀬が「Re:flyってこんな親馬鹿集団だったけ?」と口にする。すると幸弥が「それは貴方も同じでしょう?」と言う。
「…それもそうか」
「ええ」
「じゃあ、俺は来年同じようにすればいいのかな」
「それは葵と決めたらいいのでは?」
「…その頃にはちっひーも元気になってるといいけどね」
 軽口を叩きつつも心配そうに言う彼はまたサイダーを口にした。
 バルコニーから見える景色には雨上がりの海がキラキラと見えて、虹がかかっていた。
 幸弥も、そしてきっと帝も立夏も神を信じない。
 幸弥の愛してやまない宇宙を産み出し、惑星を作り出し、そして生物が進化してい過程を神というのならば別だろうが、人間が想像するような救世主などいないと知っていた。
 祈る神がいないのだからこんなことをしても意味は無い。
 でも、それでも、何か残してあげたかった。
「それではいってきます」
 そう言って去る幸弥を見て、蓮は「なぁ、青柳」と声をかけた。
「どうした、加賀谷」
「お前が計画したのにお前がやらないのか」
「……じゃんけんで華麗に負けた!!」
 そう言って心の底から泣きそうな顔をするので蓮は心の底から同情した。
「日頃の鍛錬が足りないからだ」
「…日頃の鍛錬とか関係あるのか?」
「優那、それ言ったらいけないやつでしょうが」
「そ、そうか…」
 優那に突っ込む佐和の言葉を見て、そんな皆を眺めている立夏が口にした。
「悪いな」
「ん?」
「ここにいる皆、その…帝とコスモの我が儘とはいえ、二人の為に集まってくれて」
「……」
「忙しかっただろうに」
 そう言う立夏に各自が軽く小突いた。
「きにしなさんな」
「そうだよ、後輩の為に何かしてあげたいって気持ちは解るからな」
「そうそう、話聞いた時の葵とかがやんは面白かったけど!」
「百瀬…」
「別にその話はいいだろうが!」
「そうだ、立夏!この計画は完璧だろう!」
「お前は少し反省しろ」
「痛い!」  


 ――――――――今日、三人の後輩であり、ずっと護っていた大切な子は、浮間志朗と辺見宙は結婚する。


「ったく、おめでとう!」
「やったね、シロー」
「本当に今日はベリーベリーグッドデイだ!」
「ハル、浮間が苦しそうだよ……本当、おめでとう」
「あはは、みんなありがとう」
 泣きそうな顔で皆に囲まれている志朗。
「浮間どの、某…本当に本当に…」
「って、鈴、泣くなよ……でも本当、シロー、幸せにな!」
「浮間君、本当におめでとう!二人ならきっと幸せになれるよ」
「…二人の仲が続くおまじない…する」
「あ、それいいね、ガミ!」
「じゃあ、オレは~二人のお祝いに~祝福の木を贈るね~」
「杏くん、持って帰るのが大変だから配達したらいいのではないでしょうか」
 ワイワイと皆に囲まれる志朗を見て椿と千紘はその中に入れずにただ見つめていた。


「…千紘は行かないの」
「椿もだろ」
「……別に、俺はミカに手伝わされて疲れただけだから」
 そう言ってげんなりとした顔をした椿にそういえば青柳先輩と従兄弟だったか、と思い出した。
「…来年はウチのとことそっちもやるんじゃないの、これ」
「……」
 その言葉に千紘の顔が曇った。
「…雅野はよく平気だな」
「結婚なんてそんなもんでしょ、恋が実る人間がいれば失恋する奴がいる、循環していくものなんだから。それに、お前も俺も自分を一番慕ってくれる後輩が、一番近い相手に奪われて単に落ち込んでただけでしょ」
「……ああ、そうだよなぁ」
「それとも何、中等部の時二人の事助けなかった事を悔いてるわけ?」
「……」
「そっちか」
 そう言われて千紘は思い出す。
 今此処にいる中で中等部から進学したのは隣にいる椿と、今日の主役だった。
 椿も千紘も二人と仲が良いかと聞かれたら微妙だった。勿論、千紘よりは椿はずっと二人に近かったけれど、それでも友達かと言われると微妙だろう。
 千紘も椿もそれでよかった。
 トップになる、それだけで特に考えなかった。
 でも、自分達にとって一番近くて、そして一番遠い存在は、普通に二人と仲が良かった。
 否、二人だけじゃない。
 今、二人を祝福する全ての二年が、自分達以外が祝福する権利を持っている。頑張れも、無理をするなも、大丈夫か、も言わなかった自分達が祝福する権利があるのだろうか。 「……じゃあ、俺は行こう」 「……雅野」 「まぁ、お前の気持ちはわかるよ。ミカはともかくとして俺は志朗も辺見もどうでもいいって思ってたところあったし」
「……」
「でもさ」
「……うん?」
「そんなこと気にする相手じゃないでしょ」
「……」
「あ…」
 その言葉にああ、慰められたな、と千紘は思いながら前に歩く椿の隣を歩きだす。
 確かにその通りだ。
 今日くらいはおめでとうと、言う事を赦されるだろうかと思った。
 その言葉にきっと優しい二人はきっと微笑むことは解っていながら。
「浮間」
「あ、輝崎に姫!」
「まぁ、一応、おめでとうって言っておく」
「……ああ、幸せになれよ」
 そう言った声はどう聞こえただろうか。
 志朗は笑って、それから泣きそうに目を潤ませて、「うんっ!」と明るく笑った。
 その表情に何か言おうと口を開いたが、その前に鈴の音が会場に響き渡った。


「……っ!」


 志朗は慌てて扉を見つめた。
 幸弥と共に歩き出すその愛しい人を見て、目をキラキラと輝かせた。
 揃いの白い衣装を身に纏い、幸弥の手から離れて志朗の手を握った。


――――――二人が出会って五年。
 先輩と会って4年。
 キラキラと輝く、眩しくてどうしようもなく楽しい日々だった。
 勿論、泣きたい日もある。
 絶望に嘆く日も。
 それでも、そんな時、隣にいて寄り添う宙がいた。
 それだけで、どんなに志朗の心が晴れた事だろうか。


 皆に見守られる中、幸弥と立夏の声が響く。
「さて、祈る神なんて信じないが、それでも尋ねようか」
「志朗、宙」
 何度も何度も、この恋を棄てようと思った。
 そうすれば隣にいられると思った。
 それでも好きだった。
 愛してたまらなかった。
 ささやかすぎる日々の中に、志朗の求めていた喜びがった。
 でも、同じくらい、愛されたかった。
 宙に、好きだと言われたかったと自分の浅ましさに気づいた時に自分を恥じた。
 それでも。
 それでも、宙はそれでいいと言ってくれた。
 同じくらい愛してると言ってくれた。
 そんな彼をどうして綺麗になれるだろうか。


 そして、それを祝福してくれた三人の先輩に感謝しない日はない。
 出会ってくれた事、見守ってくれた事、ここまで、育ててくれた事、泣いた事、笑った事、その全てにありがとうと、最後にこんな結婚式まで開いてくれた事を心から幸せだと言いたい。

 やがて、二人以外の人の声が響く。
「二人とも、健やかなるときも、」
「病めるときも、」
「喜びのときも、」
「悲しみのときも、」
「富めるときも、」
「貧しいときも、」
「これを愛し、」
「これを敬い、」
「これを慰め、」
「これを助け、」
「その命ある限り、」
「真心を尽くすことを、」
「「「誓いますか?」」」


 どれだけ皆を計画に巻き込んだのだろうか。
 神ではなく、全員に誓えと、否違う。
 全員に幸せだと見せつけてやれと、先輩は言う。
 志朗と宙は互いに顔を合わせた。
 二人の手にはムーンストーンと、フローライトがこれ以上ないほどに輝いていた。
 その輝きに負けないまぶしさで二人は微笑んで、


 そして――――――――誓いは立てられた。