ガッと、頬に痛みが走った。
なんとか歯に力を入れて、口の中が切れないようにする。
今は舞台の仕事が入ってないのでなんとなるが、何個か単発のアニメの仕事が入ってるので支障が出ないようにしなければならない。
あーあ、面倒くさい。
央太は青い空を見ながら内心呟いた。
「おい、聞いてるのか、橘」
聞いてないよ、と言ったら怒るんだろうなぁと内心思う。
央太がこんな事をするように、否違う。されるようになったのはいつからだっただろうか。
央太の想い人はスパイだ。
ただしくはスパイだったであって、全ては過去のことなのだが、鳥羽霞が小さいとはいえライバル養成所に情報を渡し、何人かの仕事を邪魔していたのは事実だった。
宝石ヶ丘には学校からの斡旋でなんとか仕事をしている人間は何人かいる。
央太のように事務所に属して仕事をしている人間がほとんどだが、それでも事務所に入る事ができず、個人で仕事をしている人間はそれなりにいる。
Re:flyのように敢えて事務所に入らない、というパターンもあるにはあるが、それでも個人で仕事をしている人間はだいたいが実力不足だ。
しかし、真面目にやっていない人間と違い、学校からの斡旋で仕事をとっている人間はいつか芽が出ると信じられた、真面目に努力している人間達だ。
努力すればなんとなるわけではないが、それでも仕事を取られるような悪い事をしているわけではない。
雅野椿があそこまでなじられたのは本人への嫉妬もあるが、それでも目の前の相手のように努力を踏みにじられた人間も確かにいるのだ。
「……なんでなんだよ」
「……うん」
「真面目にこっちはやってるのに仕事を取られて……鳥羽は、あんなスパイなんてやってるのに、この学園に6つしかない、上位になれるの、不公平だろ……」
でも、面倒くさいなりに、目の前の相手達は文句を言うだけの理由がある事を知っていたし理解していた。
だから無碍にはできなかった。
叩かれた頬をどう言い訳しようか、と考えながら話を聞いていた。
「かすみくんも、がんばってるよ」
「……知ってるよ」
「でも、許せねえんだよ……」
「うん、そうだよね?」
許して、というには余りにも身勝手だ。
かといって、霞に対して悪意を向けられる方が央太には辛い。
霞はそんなこと望んでいないだろうが、央太はそれでも霞の罪を一緒に背負っていくと決めた。
椿や蓮はあれで純粋だし、鈴は優しいけれど聡い人間だから言えば全部理解するだろうけれども、彼が傷つくのは央太にとって望ましい事ではない。
「あのさ」
「なんだよ……」
「殴るのはいいんだけど、なるべく傷つかないところにしてもらっていい?」
「……」
「先生に言い訳するのも面倒くさいからさ?」
頑丈だから、腹に2、3発殴られればいいか、と思っていると今度は目の前の人物が怯んだ。
それはそうだ。目の前の相手だってけしてこんなことを好きでしてるわけじゃない。やり場のない怒りと嫉妬がたまたま爆発しただけだ。
霞本人にあれこれするには守られてるし、霞の知り合いで弱そうで一番仲良い人間が自分だっただけだ。
もしも、自分が抵抗したら鈴あたりが狙われるのだろう。そうなったほうが央太には嫌だ。
「……」
目の前の人物がゆっくりと掴んでいた央太の襟首を放した。
その瞬間、
「おーたくん!」
こっちです、という巴の声がした。
最近、上級生に呼ばれている央太の様子を心配してくれていたし、なかなか教室に戻らないから先生を呼んできたのだろう。
「こっちです」と巴の声が聞こえた。
「……おい、お前等なにやってるんだ」
上級生二人に囲まれている央太を見て荒木が顔をしかめた。
「……央太、お前、顔」
しかし、央太の頬が怪我してるのを見て目を開いた。
「せんぱいたちをお話してたら、転んだので助けてもらいました」
「……」
その言葉に荒木は嘘をつけ、と言いたげだった。
「ね、せんぱい」
「あ、あぁ……」
「……橘、悪かったな」
その言葉に、あ、この人達はもういいのか。と安心した。
「おーたくん……」
「ごめんね、ミーちゃん。心配かけて」
にこりと笑う顔はゆがんでないだろうか。
きっと霞が見たら心配するだろう。
どうごまかそうかな、と央太はかんがえながら、巴に返事をしていた。
でもこれは自分勝手な願いだ。
霞にはもう傷を抱えて欲しくない。
霞の罪を少しでも一緒に抱えたい。
これを全部知ったら、霞はきっと悲しむだろうと解っていても。
初めから期待されていない人間だった。
期待されている妹と違い、自分は期待されなくて、宝石ヶ丘を目指したのも一種の反抗心だった。
真剣にやってるわけじゃない。
まっすぐな瞳で未来に向かっていく人達を見ながら自分はどうしようもない人間だと思っていた。
真剣にやってないんだから、オーディションで堕ちるのも当たり前。
ましてや、もう取り戻せない親からの期待や愛をいい年をして、欲しい、欲しいと焦がれた結果、多くの人を傷つけた。
許されない事をしている、と思う。
それでも、霞を好きだと言い続ける人間は少なからずいてくれた。
その人間の為に頑張ろうと思った。
護ろうと思っていた。
許されたわけじゃないと解っていたのに、自分は一体何をやっていたんだろう。
「加賀谷、ちょっといいか?」
「なんだ、青柳。今稽古中だ」
「ミカ、ちょっとユニット練習中なんだけどどうかしたの?」
「悪いが急用だ。それに橘がまだ来てないんだろう。来て欲しい」
「…?」
なんで央太がいないと解ったんだろう、と思ったんだろうと思いつつ、蓮が帝についていく姿を見ていた。
「ったく、急用って何??」
「まぁ、央太どのまだでござるから…」
「本当だよな、央太、どこにいんだろう」
暢気にしてた自分を殴ってやりたい。
「何だよ、それ!!」
「……え?」
大声を出す蓮の声になんだろう、と三人揃って練習室の外を出た。
「…?」
「ちょっと喧嘩?」
「どうだろう、ちょっと見てくるか」
「そうでござるな、喧嘩だったら止めねば…」
そう言って、三人揃って近くの教室にいる二人の様子をうかがう。
「言った通りだ。囲碁部の活動中に腹部を庇うようにしてた橘を変だと思って吉條と一緒に服を脱がせたら複数箇所、殴られた痣があった」
「…え?」
だが、思っていたものは二人の喧嘩とは違っていて、三人そろって耳を疑った。
「おかしいと思って、美和から相談を受けていた佐和と、そして立夏、幸弥、吉條の様子におかしいとやってきた百瀬と一色の6人で悪いが問い詰めた。
本人は口を割らなかったが、三和、冠、吉條から知らない上級生に呼ばれる橘を何度か見た事があるらしい」
「待てよ、央太は上級生に易々と殴られるようなヤマじゃねーだろ」
「そうだろうな、単純な嫉妬や報復なら橘だって一度目で教師に言っただろうさ」
「……?」
「加賀谷、絶対に本人に言うなよ」
「本人って…?」
「……橘はあれで頭が切れるからな、演技も上手い。でも、年下だからな。悪いが一人ずつ名前をあげて反応を試させて貰った」
「反応って…」
「橘が庇うのなんて、一年の友達か、ユニットのメンバーくらいだろ」
「庇う…?何だよ、それ、ユニットの奴の代わりにってことか?」
「ああ、椿、藤間、それに加賀谷の名前の時はしらばっくれたけど、あいつ、『鳥羽の名前が出た瞬間だけちょっとだけ反応があった』」
「……待てよ、それって…」
「鳥羽の問題なんてあれくらいだろ。それで調べたら橘と一緒にいたらしい上級生……否、『殴った上級生』はほとんどあの事件で仕事が奪われてたや…」
「青柳先輩、それ、どういうことですか」
「……霞」
「か、霞どのっ!」
止める二人の手を振り払って、霞は信じられなくて二人の前に出てしまった。
「……鳥羽か」
「答えて下さい、央太が、俺の代わりに殴られてたって…なんですか、それ」
「……悪いが、答えられない」
「どうして…」
「橘と約束した、『かすみくんと、ミヤくんと、りんくんには言わないで』って。橘は数学が得意だ、あれで頭も切れる。だから、俺が加賀谷に言う事は解ったんだろうな。だから、せめて他の三人には言うなと言った」
「ちょっと、ミカ。何それ。Hot-Bloodのリーダーは俺なんだけど」
「ああ、解ってるさ。俺だって志朗や宙に同じ事があったら同じ事を言うだろうな」
「だったらっ!」
「でもな、橘は俺にとっても初めて出来た部活の後輩の一人だ」
「……ミカ」
「あんな、いつも笑ってる子が泣きそうな顔で言うんだぞ。約束を破れるか?」
「……どこ」
「……」
「ミカ、央太はどこにいるの」
「さてなぁ、コスモが連れて行ったから知らん」
「……っ……」
「ミヤどの?!」
「探しに行く」
「……」
そう言ってアテもなく駆け出す姿にいつものミヤらしくないな、と思いながら霞は呆然と見ていた。
「……青柳どの」
「うん、藤間、どうした?」
「一つだけ聞きたい」
「……」
「何故、央太どのは抵抗しなかったでござるか?」
「……」
「……やはり、そうでござるか」
何も帝は答えなかった。
だが、それだけで鈴には十分だった。
「…鈴、どういうことだよ」
「……もしも、央太どのが抵抗したところで報復が終わるわけじゃない」
「は?」
「そしたら、多分狙われるのはミヤどのか某」
「…え、ちょっと、待てよ」
その言葉に自分に来てくれた方がずっとマシだったと思っていた霞は顔をあげた。
「霞どのは学園が安全を保障してるでござるからな。で、ミヤどのは先の問題のこともあって狙われにくい。となれば、おそらく某が狙われたことでござろう」
「………」
そこまで言われて、央太が耐えていたもう一つの理由を知った。
「…ってことは」
「…橘はHot-Bloodを護ろうとしてた、ということになるな」
「……っ」
その言葉を聞いて、唇を噛んでそれから蓮は一度床を見た。そしてすぐに前を見て走り出す。
「蓮どの!」
「あの……馬鹿…っ!」
走り出す蓮の後と、立ち尽くした霞を見比べて、鈴はぽつりと「霞どののせいではござらんよ」と言ってくれた。
「……鈴」
「央太どのは…きっと」
「解ってる」
「…」
『行っちゃやだよ』
すがるようなあの眸を忘れられない。
どこにも行かないで欲しいと霞に言った。
でも、だからってこんな人を庇う為に自分を犠牲にする必要なんて何もないというのに。
誰かに頼って欲しかった。
なんて自分は我が儘なんだろうか。
「鳥羽」
「……青柳先輩」
「罰してほしいって顔してるな」
「……っ」
「ほら」
「……あ」
「どうして、お前の事を庇ったのかちゃんと考えて行けよ?」
そう言って、帝に指さされた場所へと霞は走り出した。
「……青柳先輩」
「うん?」
「央太どののこと、かたじけない」
「礼を言うくらいならたからハンバーガーに来て売り上げに貢献してくれ」
「了解したでござる」
「……ったく、加賀谷だけに言って穏便に言うつもりだったんだが…」
「蓮どのは素直でござるからな、密談には向いてござらんよ」
「ああ、知ってた」
「……まさか、全て…」
「いいや?でもどっちに転んでもいいとは思ってた」
「……」
「それにコスモが連れて行ったのは事実だしな」
「……では、某も仲間の元に行くでござるよ」
「ああ、そうだ。藤間」
「?」
小走りで行こうとする鈴に帝が声をかける。
「……橘にしたことは許されない事だが、元々加害者達も本来は…」
「解ってるでござるよ。こちらが報復することはきっと央太どのが許さないでござろう」
「…」
「あのときも、いまも、某達は気づけなかった罪を背負っていくしかないでござる」
「ああ、それなりの処罰が近日下る、と言っていた」
「相、つかまつった」
「……」
そういった帝の手は強く握られていた。
それを見ながら鈴はきっとこの人も本当は、と思いながら改めて仲間を追った。
「う、うぅ~病院嫌い~」
「我慢しろ」
「……あれきせんせいのいじわる」
「……」
「怒ってる?」
「まー、相談しろとか言いたい事はあるが、気づかなかったこっちにも問題があるからな」
「みんなおおげさー」
「お前がみんなだいすきだからだよ」
「うん、オレも皆大好き!!」
にこにこと笑う央太に冴はどうしたものか、と思った。
上級生の処罰は楽だ。けれど、央太ははっきりと言った。
『それでも、この人達にかすみくんがしたことはゆるされないことだから』
『この痣が、かすみくんに与えられた傷だって言うなら、それをオレは背負っていきたいって思うんだ』
その言葉に何故か葵が怒った顔をして、百瀬が困った顔をしていた。
立夏は困った顔をして、幸弥は無表情だったが。
結局、もう央太に近づかない事、を命じたけれどそれも学外ならば解らない。何も解決していなかった。
「う~、みんなとのれんしゅう、おくれちゃう」
「お前、そんな身体でするつもりなのか…?」
「もっちろーん!だって、みんなと一緒にやる練習だいすきだもん!」
まるで太陽な笑顔を浮かべる生徒の頭を、冴はため息を吐きながら撫でてやった。
「…ほら、着いたぞ」
「わーい!!」
いきおいよく、ぴょん、と校門の前で央太は降りる。
「あれ?」
そして、勢いよく誰かが走ってくるのが見えた。
「央太!!」
「あれ~かすみくん??」
どうしたんだろ、と首を傾げてると
「え、ちょっと?かすみくん??」
そのまま勢いよく、タックルされるかのように霞に央太は抱きつかれた。
いつもと逆。
一体どうしたのだろう、と思っていると…
「……かすみくん、泣いてるの?」
「ないて、ない」
ぽろぽろと涙をこぼす霞の声が聞こえた。
「……なんで…」
「……うーん、よくわからないけど、よし、よし??」
霞の背中に手を回して、央太は笑いながら背中を撫でた。
「……ぜんぶ、きいた」
「え…」
けれど、その言葉に央太の動きが止まった。
「ごめん、俺の…」
「かすみくんのせいじゃないよ」
「……っ」
謝ろうとしたけれど、霞の言葉を央太は遮る。
「…央太…」
「かすみくんのせいじゃない」
「……でもっ…」
泣く資格なんて自分にはない。
欲しい欲しいと、手に入らない親の愛を求めて酷い事をした。
央太に酷い事をした人間が許せない。
でも、その人間に酷い事をしたことが許せない。
「オレ、かすみくんのにもつをちょっとだけ持ちたかった。だから、勝手にしたの。でも、そのせいでかすみくん、悲しませちゃった」
「……」
「ごめんね、かすみくん」
「……なんでだよ…」
「……」
「なんで、央太が謝るんだよ…」
何もお前こそ悪くないのに。
何も、何も悪くないのに。
なのに、どうして。
そう思いながら霞はじっと央太の顔を見つめた。
涙を流している自分に対して、央太はただただ、眩しい笑みを浮かべて。
「だって、オレ、かすみくんのこと大好きだから」
「…」
「だから、どこにも行って欲しくなくて、酷いことしちゃった」
何も悪くないのに。
央太は笑う。
「…かすみくんは色んな人にひどいことをして」
「…っ…」
「でも、オレはそれでもかすみくんが好きだから、オレだけでもかすみくんは悪くないんだって思いたかった」
「……そんなの…」
お前が背負うことないのに。
でも、央太を傷つけられた事が、自分の贖罪なんだろうか。
だとしたら、そんなの間違ってる。
「かすみくん」
じっと央太は霞の背中に回す腕に力を込めた。
そして、
「…どこにもいっちゃやだよ」
あのときのように口にした。
そんなの、傍にいさせてほしいと頼むのは自分のほうなのに。
央太に、みんなに自分はどう償ったらいいというのだろうか。
この、透明で、無垢で、綺麗な存在をどうやったら守れるというのだろうか。
自分は、こんなにも弱くて、央太は強くて、自分はどうして。
そんな事を考えてると、
「央太!!!!!!!!」
「てめえ!!」
「あ、ミヤくん、れんくん!!」
「そんなに俺が頼りない!?」
「…え?」
「そりゃ、ミヤがたよりないのは解るけどよ、オレには相談してくれてもいいだろうが!」
「はぁ?何脳みそゴリラの人が言ってるの。ってか、普通に俺には相談するもんでしょ」
「はぁ??そういうハリネズミプリンセズだから央太も相談できねーんだろうが」
「ハリネズミって何?まぁ、ゴリラよりはマシだけどね!!」
「はぁ???」
「…」
その様子を見てて、霞は原因は自分でありながら、こうだから相談出来ないのでは?と内心思う。
まぁ、本心では自分が相談されてないのに他の相手に…という気持ちがあったが。
央太には自分がいればいいし、自分を一番頼ってくれればいい。
「…あれ?」
そこまで考えて何か違和感を霞は覚える。
「…かすみくん?」
今、何かちょっと変な気がしたが、気のせいだと霞は考えることにした。
「央太どの!」
「あ、りんくん!!」
「青柳どのから全て聞いたでござる。某、同室なのに何も……」
「もーりんくんってば!オレがそうしたんだからいいの!」
「でも……」
「…かすみくんも、りんくんも、ミヤくんも、れんくんも、あの事件ですごい、いやな気持ちになったでしょ」
「……」
央太は少しだけ考えて、でも言わなければと切り出す。
「……ミヤくんとかれんくんなら、そんなの実力足りないだけっていうかもしれないけど、でも、たしかに、」
そこまで言って、央太は言いづらそうに、でもはっきりと口にした。
「かすみくんに傷つけられた人っていうのはいるんだよ」
「……っ」
それをまさか他ならぬ央太が言うとは思わなくて、四人とも驚いた。
「ごめんね、怪我してること言わなくて。でも、オレ、殴られてる度、ちょっとだけ嬉しかった」
「は?なにそれ、マゾなの?」
「いや、さすがにそれは」
「…だって、これはオレが気づけなかったかすみくんの苦しみなんだって思ったから」
「……え」
「かすみくんが苦しんでる事気づいてあげられなかった。だから、これはその罰」
「……」
「でも、ミヤくんやりんくんやれんくんや――――――かすみくんにしんぱいかけちゃったの、かなしいからもう辞めるね」
ごめんね、と言う央太の言葉になんて言ったらいいのだろうか。
そんなの此処にいるみんな一緒だ。
霞の傷は霞のものだ。
自分勝手な願いの代償で。そんなの央太が背負うことない。
でも、目の前の後輩は、
「別に心配なんてしてないし!」
「えー、まぁそうか~ごめんね?」
「ばっかじゃないの!」
「うん、オレ馬鹿だよ?」
「そうじゃなくて……ああ、もうっ!」
「ミヤどの、混乱してるでござる」
「……央太」
「うん?」
「何度も言うけど、オレにはちゃんと相談しろよ?」
「うん、次はするね!」
「お、おう…」
それでも無理矢理、それを背負ってくれようとするのだろう。
「…央太どの」
「うん?」
「その、痣が治るまで、某、寮では色々手伝うでござるよ」
「わーい、りんくん、ありがとう~!」
「……」
それがかなしくて、つらくて、央太は央太の荷物を自分に持たせてくれないのに、と思いながら、
「…かすみくん?」
少しだけ、ちょっとだけ嬉しいと思ってしまった、そんな、日のできごと。