キースがずっと探していた人物。
どんな相手だろうとずっと思っていた。
『ロスト・ゼロ』で殉死したという親友。
きっと男だろうと思っていたその人物は女性で、綺麗なピンク色の髪に空色の瞳。
女だというのに、自分の憧れのマリオンも倒してしまう程の強さ。
気さくで誰にでも優しい性格。
穏やかで柔らかいけれど、けれど真面目で真っ直ぐ。
レオナルド・ライト・jrにとってデイノ・アルバーニは大好きで、尊敬する憧れの先輩だった。
別にキースを尊敬していないわけでも、憧れていないわけでもないけれど、彼の駄目なところを散々見てしまった結果、ジュニアにとってはどうしようもない兄分のようなイメージのほうが強かった。
勿論、実の兄がいるので、けして認めはしないが。
いつも優しくて自分の大切にして、可愛がってくれる。
でも、自分のことは後回しで人のことばかり気にしてしまう彼女には幸せになってほしい。
そう、ジュニアは思っている。
だからーーー
「ぜってーー、ダメだ!」
ぷんぷんと音を立ててるかのように怒るジュニアにディノはどうしたものか、と困ったような顔をする。
ウエストセクターのある意味名物となっている、というのはジュニアしかしらない話である。
老若男女人気のあるディノだが、その中にはお付き合いをしたい、というような男がいないわけではない。
ディノからしてみればもう30近い自分を口説くのなんて冗談だよ、と思っているがそうではないことを周りは良く知っている。
「こら、ジュニア。応援してくれる人に失礼だろ?」
「それはそうだけど……、だけど、ディノと付き合うのは俺の認めたヤツじゃなきゃ絶対に認めねぇ!」
「もう、しょうがないなぁ、ジュニアは」
そう言って頭を撫でてくれる手も、困ったように笑う顔も全部好きだ。
ジュニアにとってディノは姉のように慕っている人物だった。
余りにも素直に慕っているので、キースには「マジで俺との扱いが違いすぎる」とか、フェイスには「まさかおチビちゃん、ディノに本当のお姉ちゃんになってほしいとか言わないよね?」と突っ込まれた。
でも、別に自分の兄と結婚して欲しいとか、本当の姉になってほしいという気持ちは一切無い。
だって、知ってる。
「ほら、キースとフェイスが待ってるから早く帰ろう?」
そう言う時に少しだけ目が輝くことを。
恋愛についてはよくわからない自分も、ああ、ディノはキースのことが好きなんだな、とわかる。
そして、キースもディノのことが好きなのだと痛い程に知っている。
なんでくっつかないんだ?と思うのだが、一度ブラッドに相談したところ『もどかしい気持ちはわかるが二人には二人のペースがあるのだろう』と言っていた。
アカデミー時代から二人に付き合っているブラッドが一番さっさとくっつけと思っているのかもしれないと思えた。
ディノには幸せになってほしい。
でも、同じくらいキースにも幸せになってほしい。
お互い好き合ってるのが解るんだからさっさと付き合うなり、結婚してくれたらいいのに。
だってそうしたら、酒に酔ってるキースに「結婚してくれ」と言われて、頷くディノが朝がっかりする必要がなくなるのに、と。
いっそ全部教えてやろうか、とも思うがそれではどうやらいけないらしい。
フェイスによくお子様とからかわれるし、その度に「ガキじゃない」と言うけれど、こういう時は自分は子供なんだろうな、と正直思う。
ディノの隣に立つのはキース以外嫌だ、というのが自分の我が儘であることも解ってる。
「……大体、ジュニアはそうやって俺のことばっかり気にするけど、ジュニアだっていつか告白されるかもしれないぞ?」
「……それこそ絶対無いと思う」
「そんなことないぞ?ジュニアは滅茶苦茶可愛いし、良い子だし、素直だし、結婚したいって言う人がいたら……」
「そんな風に褒めてくれるのディノと兄ちゃんだけだって!」
どうしたものか、と思っているとディノのお決まりの言葉が出てきてジュニアはため息を吐く。
アカデミーに入る前から男よりも男らしいと言われたジュニアが女として見られることはほとんどない。
ディノが入る前では「女として見れない」とキースとフェイスに言われたくらいだ。
グレイやウィルなんかは気遣ってくれるが、女が苦手というガストにすらジュニアは女ではないと換算されているくらいなのだ。
そんな自分を同じ女として心のそこから「可愛い、綺麗、大好きだ」って言ってくれるディノだけがジュニアにとっては自分を女として見てくれる存在でもあった。
事実、ディノがメンターになってから「お揃いにしよう!」と言われて、幾つか女物の服が増えたし、スカートも履くようになったし、そもそもブラジャーを買ったのもディノに連れて行かれてだった。
ディノに女の子を棄てたらダメだ、と言われて自分の性別を徐々に思い出せた気がする。
今日だってプライベートだからいつもと違う髪型!と言われてハーフアップに、お揃いのワンピースを着て出かけるくらいには。
とはいえ、自分がディノみたいに可愛いになれないことは理解しているのだけれど。
「そんなことないぞ、ジュニアは滅茶苦茶可愛いんだから」
「……」
そんなことない、と言っても真っ直ぐにディノに言われてしまうのがお決まりだから「ありがとう…」と小さな声で返せば嬉しそうに微笑む。
「あぁ~こんなにジュニアは可愛いからなぁ……ジュニアも俺の認めた人じゃないと結婚したらダメだぞ」
「はぁ?俺と結婚したい奴なんているわけないじゃん」
「そうかなぁ」
「そうだって」
大体、自分なんてディノの引き立て役だし、と思いながらも可愛らしい上司の手を握って二人の家へと戻る。
「大体、ディノが認めるような相手って誰だよ」
「えぇ~そうだなぁ……」
ふと気になって聞いて見ると、
「フェイスとか?」
「……はぁ?クソDJ?」
同室の相棒の名前が出てきて心底何言ってるんだ、と思った。
だって、あいつが好きなのぜってーディノじゃん、と突っ込んでしまう。
「フェイスは格好良し、優しいだろ?」
「確かに顔はいいけど、だらしねえし、まったく……いや、少しは優しいけどさ、でも、人のこと滅茶苦茶からかってくるじゃん」
「それはそうだけど……それはフェイスがジュニアの特別っていうか…」
「大体、あいつは絶対俺のこと女扱いしてねえぞ」
「そ、そんなことないと思うけどなぁ…」
そういって、目を泳がすディノに、やっぱり鈍いんだなぁ…と思えてしまう。
だって、あいつが真面目にヒーローをやるようになったのってディノが来てからだし。
それに他の女に対しての態度とディノに対しての態度が違う。
なんていうか、ディノには優しいというか甘いし、とにかくディノに言われたら何でも言う事を聞く。
キースのヤツが、初恋もまだなんじゃないか、と冗談で言ってたけど、グレイやガストから借りた漫画でああいうのあったし、多分、間違えなくそうだと思う。
でも、残念だけど、ディノが好きなのはキースだし、まぁ初恋は実らないっていうし残念だな……と思った。
まぁ、二人が結ばれた暁には慰めてやろう。
まぁ、もっとも本人は、彼女の数を解らないようなクソ野郎だったし自業自得だとは思うけどな……。そういえばちゃんと清算したと何故か人に報告してきたんだったなと思い出す。
人がやたらクソクソ言ってたから、報告するような微妙な真面目さだけはあるよな、あいつ…。などと思っているジュニアの隣でディノもどこか遠い目をしていた。
「…ジュニアは好みのタイプはないのか?」
「好み?」
「憧れの人とか」
「マリオンと兄ちゃん!」
「……」
「あ、あと……」
「うん?」
「ディノのことは尊敬してる…」
「……本当、嬉しいな!」
ぎゅーーーと抱きしめられて甘い匂いがして、ああ、早くディノが幸せになったらいいのに!とここにはいないクソメンターを思いながらジュニアは心の底から思わずにはいられなかった。