エピローグ

 そんなことを思っていたのは数年前のこと。
 白いチャペルに、白い衣装。
 かつて自分たちが宣伝したウェディングプランを思い出した。
 誰もが嬉しそうな顔をしてその場にいて、幸せだと心底思う。
 そう、今日は結婚式だ。
 自分たちのーーー


「おめでとう、キース!ディノ!」


 大切な恩師であるメンター二人の。
「ありがとう、ふたりとも!」
 こじれにこじれて、初恋同士の二人はなんだかんだで結ばれて、それでも自分たちがルーキーでいる間は、と結婚することはなかった。
 ジュニアとフェイスがAAになるということはお互いの人生の目標だったが、同時に二人の幸福のためにも必要なことだった。
 友人代表にブラッド、恩師としてジェイ。両親としてディノの養祖父母。
 多くの人にスピーチされて、そのたびにディノは涙を流していた。
 そして、どうするか相談した結果、フェイスとジュニアが二人のメンティーとしてメッセージを送ることにした。
 本当はオスカーやアッシュもしたかったのではないかと思ったが、結果として二人が任された。
 ディノが来るまでどうしようもなくて、でも彼がずっとディノを探していたこと。
 ディノが来てからは変わって、少しだけマシになったこと。
 優しすぎて、自分のことは後回しにしてしまうディノが心配なこと。
 そんなディノとキースが喧嘩したことがあったこと。
 二人のことを、心底尊敬していて、幸せになあってほしいこと。
 全部、全部本当のこと。


 他のスピーチでは耐えられていたキースもほんのすこしだけ涙があふれ出ていた。
 おめでとうと言えば、破顔させた二人が見えた。
 ああ、よかったと思った時だった。


「それでは、引き続きブーケの贈呈です」

 ブーケの贈呈、と聞いたことがない言葉が聞こえたのは。
 ブーケトスじゃなくて?と周囲も困惑しているようだった。

「……色々考えたんだけど、やっぱり、俺にとってジュニアは特別な女の子だから」
 そう言って、持っていたブーケを手にジュニアに渡す。
「え……」
「俺とキースにとって、ジュニアとフェイスは大事なメンティーで、最初からみれたわけじゃないけど、でも、こうして最後までちゃんと面倒をみれて、二人がルーキーから立派なヒーローになるのがみれて本当に嬉しかった」
 な、キースと呼ばれて少しだけ頬を赤らめている隣にいる男は照れてるのだろうが、結婚式だからなのか、メンターとしてだからなのかはジュニアにもフェイスにも解らない。
 おそらくどっちもだろうなとは思うが。
「……まぁ、そういうことだな」
 言葉は多くないが、そこで否定しないあたり、もしかしたらキースも浮き足立っているのかもしれない。まぁ、考えたら結婚式の主役なのだ、当たり前だ。
「………フェイスとジュニアは、いつもキースと俺が一緒じゃなきゃって言ってくれただろ?」
「……まぁ」
「おう……」
「俺も二人にもずっと一緒にいてほしいんだ。だからジュニアに、二人に貰ってほしいんだ」
「……」
「……」
「……もっと自分のことを考えなよね」
「そうだぞ」
 自分が主役の結婚式さえこうだ、と思っているとディノは「にひひ」と笑った。
「大丈夫だよ」
 それから今まででとびっきりの笑顔で
「キースと幸せになるから!」
 世界一、一番綺麗な姿で彼女は言った。
 その笑顔がフェイスもジュニアも大好きで、ずっと続けばいいと思う。
「ありがとう、ディノ」
「ったく、ディノのこと泣かせたらしょうがないからな!」
「いや、泣かせねえよ」
 三年。
 最初はどうなるかわからなかった、掃き溜めだった。
 でも、今では一番大好きな場所だった。
 それも終わって、4人は2人と2人になった。
 だけど、けして絆がなくなることはない。


「それでは、ピザの入刀です!」
「……ケーキじゃないのな」
「まぁ、ディノだしね…」


 これから二人には子どもが出来るかもしれないし、ヒーローを引退してディノの故郷で過ごすかもしれないし、まったく違う道を歩むかもしれない。
 でも、お互いと一緒にいるんだろう。


  「……ねぇ、おチビちゃん」
「なんだよ、クソDJ」
「4年後は俺たちの番だね」
「ぴぎゃ、あ…………そ、そうだな……」


 そして、同じように自分たちも死ぬまでずっと一緒にいるんだろう。
 10年、20年、100年後だって、愛し方が変わっても、愛する事は変わらない。
 未来でも、きっと君の傍で微笑んでいるんだろう。
 今よりもずっとずっと、多大な愛を君に抱いて。