Hold

 頭が割れるように痛い。
『どうして』
『なんでこんな酷いコトが出来るの』
『殺さないで』
『やめて、やめて!』
『おとうさんっ、おかあさんんんんんっ』
 悲鳴が聞こえる。


   脅える人達が見てるのは、
 
 

  「やめてくれ……」


 小さな子供に手を伸ばすのは、

「やめろ……」

――――――殺そうと、するのは、

「やめろぉおおおおおおおおおっ!」


「ディノ!!」
「…………キース……?」
 頭と、体と、心臓が痛い。
 体中から汗が流れている。
「……大丈夫か?」
「……どうして……」
 体中が熱い。
 どうしてだろう、と思っているとそういえば自分は風邪を引いていたことを思い出す。
 ひんやりとしたタオルが額におかれる。
「腹減っただろ、なんか食べたいモノでもあるか?」
「……ピザ……」
「ピザなんて具合悪いときに食うんじゃねえよ……」
「なら、リゾット……」
「お~、後で持ってきてやる……」
「きーすぅ……」
「なんだ?」
「……あせ、かいてきもちわるい……」
「なら、体拭いてやるよ」
「うん……」
 そう言って出て行こうとするキースの背中。
「…………きーす?」
 シャワールームに行くんだろうな……って思ってたけど、なぜか行かない。
 どうしてだろう、って思っていると、キースは何故か驚いたように俺を見てる。
「……いかないのか?きーす……」
「いや、だって……」
「……うん?」
「……」
 キースが見ている方向を見ると、自分が服の裾を握っている事に気付く。
「…………あれ?」
 どうして、と思いながら慌ててふりほどく。
「……ディノ、おまえ……」
「ごめ、違うんだ、これは――――」
「……」
 キースの手がそっと頭を撫でてくれる。
 同じ年だぞ、と思うのにそれでも撫でてくれる手はひんやりとしてて気持ち良い。
「……寝るまで傍にいてやるから」
「……」
「……ディノ?」
「て」
「手?」
「繋いでてほしい……」
「……こどもかよ」
「……おとなだよ」
「……ジュニアだって、そんなこと言わねえぞ」
「…………ジュニアはしっかりしてるから」
「……仕方ねえな」
 漫画やドラマであるみたいな、自分よりも大きい手――――なんかじゃなく、自分と同じ大きさくらいの、無骨な手。
 でも、俺はこの手が大好きだ。
 アカデミーのころから、ずっと。
「ほらよ」
「……うん」
 ああ、今度はどんな夢を見るんだろう。
 わかってる、これも俺への罰なんだって。


 だって、さっきみた夢は、アレは間違えなく――――――イプリクスだった頃の、『ゼロ』だった頃の俺だから。




「……キース、ディノ大丈夫?」
 コンコンというノックと同時にジュニアとフェイスがこっちを覗き込む。
「あ~……」
「……具合悪いのか?」
 ディノの事を心配するジュニアちゃんに「心配ねえよ」と言う。
 いつもなら頭を撫でてからかってやるところだが、生憎手は塞がってる。
「……悪いんだけど、お湯組んできてくれねえか」
「?いいけど、何するんだ?」
「体を拭いてやるんだよ」
「……うわ……キース、寝込みを襲うとか最低でしょ」
「病人に何してんだ、てめー」
「誤解だ、誤解!汗かいたから拭いてやるだけだろうが!」
「……それでも、ちょっと引いちゃうんだけど」
「そうか?」
「……1日くらい別に汗かいたくらいなら着替えるくらいでいいんじゃねえのか、まぁ、別にいいけどよ」
「お~、頼むわ」
「…………そういえば、ご飯はどうするの?」
「リゾットが食いたいってさ」
「……作れなくない?」
「……まぁ、手が離れたら作るわ」
「そしたら、ディノが寂しいんじゃねえの」
「まぁ……」
 それはそうだろうけど、でも何か口にして薬を飲まないとこいつも治らないだろうし。
 そもそも、起きてきて「おはよう」と同時にぶっ倒れたのだ。
 たまたま今日はディノがオフで、他3人が午前がパトロールだったから良かったけれど、そうじゃなかったらきつかっただろうな。
「……しょうがないな」
「あん?」
「俺がおチビちゃんと作ってあげる」
「……あんまり、料理できねえけど」
「別にいいよ、手伝ってくれるだけで。だから、キースはディノと一緒にいてあげてね」
「おぉ……ありがとな」
「いいえ、どういたしまして。あ、そうだ」
「うん?」
「おやすみのキスしてあげるとよく眠れるみたいだよ」
「……小さい頃、ブラッドお兄ちゃんにして貰ったのか?」
「そんなわけないでしょ、おチビちゃんじゃあるまいし」
「ふぁっく!俺だって、小さい頃だって兄ちゃんにしてもらったことなんてねーーーー!」
「えぇ……意外…………まぁいいや、ほら、行くよ、おチビちゃん」
「おう…………キース」
「うん?」
「ディノのこと、よろしくな」
「……お前にいわれなくても大丈夫だっての」
「……うん」
 そう言ってさって行くメンティー二人に「あいつら心配性だな」とディノの前髪を遊びながら呟く。
 まぁ、フェイスは相変わらず人の事をからかっているが、ジュニアは心底心配そうにしてたから早く安心させてやりたい。
 どうにも、フェイスは昔の自分ほどではないが擦れていたせいが「クソガキだな」で済むのだが、ジュニアのキラキラとした瞳には弱い。
 ディノもそうだが、ああいう眩しい相手の目は俺にとっては宝石よりも眩しすぎるんだよな。
「……ったく、お前の事になるとみーんな、過保護になっちまうのかね?」
 実際はリビングにいる二人に俺が「キースってディノのことになると過保護だよな」「まぁ、4年も離ればなれで、今もディノは悪夢を見てるみたいだし心配なんでしょ」と言われてるとは知らずに。
「……」



『おやすみのキスしてあげるとよく眠れるみたいだよ』


「……」
 あんなのはフェイスが冗談で言っただけだ。
 けれど、
「……」
 トレーニングして、自分よりもずっと鍛えてるのに柔らかさを残す同性の頬に自分の唇を寄せる。
「……キース~、お湯持ってきた…………」
「っ!じゅ、ジュニア……」
「……ぴ」
「ぴ?」
「ぴぴぴぴ、ぴぎゃ!」
「ちょ、ちょっと、ジュニア!」
「お、おれは、おれはなんも見てねえから!こここ、ここにお湯置いておくな!」
「ちょ、ちょっと待て!フェイスには――――」
「クソDJ~~~~~~!」
「……」
 あとでからかわれるな…………まぁ、別にそれくらいはいいんだが。
 ったく……
「はやく、よくなってくれよ、ディノ」
 そう言って、今度は額に唇を寄せた。


『痛い』
『苦しい』
『どうして』
『なんで』
『おまえのせいだ!』
『返して!ねぇ、返して……!』


「……っ」


 ゼロだった頃、多くの人を殺してしまった。
 謝っても謝りきれない罪。
 それでも、ヒーローに戻る、と決めた。
 ヒーローとして贖罪を、より多くの人を守ると。
 でも、
「あ……」


 白い服から、黒いヒーロースーツへと変化していく。
 でも、誰もいない。
 キースも、
 ブラッドも、
 フェイスも、
 ジュニアも、
 ジェイも、
 アッシュも、
 オスカーも、
 他のみんな、全員いなくて、


『どうして』
『あなたもいっしょなのに』
『ずるい』
『ひとりだけしあわせに』
『うらぎりもの』


「あ……」


 そうだ。
 彼らだって同じじゃないか。
 もしかしたら操られてるかもしれない。
 本当は居場所があるかもしれない。
 でも、それでも――――


 キースの言ったように、救える命には限りが有って。
 でも、自分は、俺も本当は処分される命で。倒されるべき人間で。
 なのに、どうして――――

「……」

 そう思った時に、誰かが手を握ってくれた。
 なんだろう、と思っているとふわりと口づけが落とされる。
「……」
 ああ、そうだ。
 この人は――――――


「キース」


 名前を呼べば、ふわりと笑う声がした。
 瞬間、真っ暗だった場所に花が咲く。
「……」
 それから、隣へ目線を寄せれば――――――


「……キース……」


 そこは、自分の見慣れた部屋だった。
「……」
 キースの寝顔があった。
 びっくりしたけど、体を起こすと手を握ってくれていて
「……服……着替えさせてくれたんだ……」
 寝間着も替わっていて、キースがずっと世話してくれてたんだと解る。
「……」
 すぅすぅと寝息をたてる様子。
 いつもは冷たい印象を与えるけれど、でも俺や、フェイスやジュニアには凄く優しくて、温かい顔を見せてくれる。
 そんなキースが俺は大好きだ。
「……ありがとう、キース」
 ちょっと情けなくて、不真面目なところもあるけれど、でも、格好良くて、強くて、いつだって俺のことを助けてくれる『ヒーロー』。
 次、目を閉じたら、今度はキースと一緒にいる夢が見れたら良いのに。


 

リクエスト内容『キースがディノを甲斐甲斐しくルーキーもビックリなお世話っぷりで看病する話』でした。 キスディノを書く上で絶対に書かなきゃいけないな、と思ってる内容として前回の『Alive』と今回の悪夢の話はやらねばなるまいと思ってましたので
リクエスト内容が来て、ついでなので絡めてかかせて頂きました!