ヒーローなんて辞めてもいいと何度も思っていた。
それでも、必死に『ヒーロー』なんて続けていたのは、
「ディノ」
恩師と『親友』へのほんの少しの感謝と、
「……キース?」
『好きな奴』を探し出すのに結局ここが一番近道だったからだ。
ここがあいつの居場所で、ずっと守ってやりたかった。
けれど、そんなものは幻想だと、今更気付いてしまった。
結局、9年間いたこの場所も、自分の『居場所』ではなかったのだ。
イプリクスとの戦い後、ブラッドとディノは負傷して『入院』した。
その後、ディノは幼い頃から洗脳していたのだ、ということが証明されてキースは肩の荷が下りた――――はず、だった。
しかし、上層部の判断は、
「ディノ・アルバーニを『処分』する」
「……は?」
「聞こえなかったのか、イプリクスへの情報漏洩及び、メジャーヒーロー・ブラッド・ビームスの負傷原因としてディノ・アルバーニは処分する」
「おい、ちょっと待てよ…!それは全部洗脳で、今は……」
「それが事実だとどう証明する?」
「だから、アイツが自分の意思でそんなことするわけがないって解るだろうが!」
「キース・マックス」
「なんだよ」
組織として疑わしき罰する。それは正しいのかもしれない。
「ディノ・アルバーニは8歳の頃より我々の保護下で管理されていた。しかし、それでも今回の事件が起きた」
「それは本人のせいじゃ
「今後、このようなことがないようにしっかりと『研究』しなければならない」
「……は?」
なにを言ってるのだ、こいつらは。
処分、というから殺すのか?と思っていた。
しかし、上層部が考えているのは―――――
「大丈夫だ、君が言うように、彼は生かして置いてあげよう」
ディノを『実験動物』として、『飼い殺し』にする、という意味だ。
「……っ」
「これは命令だ。メジャーヒーローならば、理解したまえ」
「……っ」
ここにいる全員を殺してやりたい。
しかし、そんなことをしても意味は無い。
もしも、まだ休んでいるメンターリーダー様ならば素直に頷いたのかもしれない。
けれど、キースには無理だった。
ディノを、
世界一大事な人物が酷い目に合いそうなのに、指をくわえて待っていることなんてできるはずが無かった。
「……」
このセクターに、思い入れがないというと嘘になる。
ディノは帰ってこないと周りから言い聞かされていたキースにとって、2人は可愛い弟子で、同時に一筋の希望を信じてくれた人物でもあった。
それでも――――
「悪いな、フェイス、ジュニア」
ディノと天秤に乗せれば、ディノ以上にキースは大事なものはなかった。
それくらい大事で愛しい存在だった。
キースは振り返ることなく、ディノのいる場所へと走って行く。
「ディノ」
「……キース?」
牢獄のような場所だ。
冷たいその場所はディノには似つかわしくない。
「迎えに来た」
「迎えって……」
「ほら、行くぞ」
「……っ」
情報を買う金はない。
けれど、もう二度とここに戻ってこない、と決めれば何でも出来るモノだ。
イプリクスにするよりも、HELIOSにいる人間のほうが余程楽に、色んな事が終わった。
「……キース…」
「なにしてるんだ」
「だって、俺がいなくなったら、キースは……」
「いいんだよ」
「ヒーローじゃなくな
「そんなの、どうだっていいんだよ!」
「……っ」
「文句があるなら浮かせて行くぞ」
「……っ」
ヒーロー能力でディノを浮かせて、走り出す。
ずっと、ヒーローとしても逃げ続けていたせいか体力は落ちている。
頭の中でジュニアが叫ぶ声が聞こえた。
本当にクソメンターだったな、と笑えてくる。
「……待って、キース」
「あ?」
ディノに呼び止められると同時に警報がなる。
『緊急警報、緊急警報。脱出、脱出―――――』
「……俺も走る」
「……」
思ったよりも早かったな、と思っていると、ディノがそう言った。
「ディノ」
「ごめん、キース」>
「…………っ」>
「俺も、キースと、いきたい」
その言葉は、もう後戻りすることは考えていなかった。
「……っ!当たり前だろ!」
存在を証明をするかのように、2人は手を握り合って走り出す。
「……っ、行くぞ!」
「うん!」
それから、ディノが笑った。
男2人。何をやっているんだろうと、正直思う。
けれど、もう止まる気はなかった。
もうすぐでタワーから出られる、その時だった。
「しびれろ!」
「っ」
雷が目の前に落ちる。
「キース!」
ディノがキースの腕を引っ張って、スレスレで交わす。
「ディノ!」
だが、その瞬間、
「っ!」
2人の耳に、とんでもない騒音が響く。
「……うっ…」
元々、ディノの『ヴェアヴォルフ』は人狼化するという能力だ。
それはヒーロースーツを着ている時―――サブスタンスを使用していない時でも、影響は受けていて、耳や鼻が普通の人間よりも良いのがディノの特徴でもあった。
「キース、ごめんね?」
「……クソメンター」
「……フェイスに、ジュニア」
他のヒーローならば、それこそジェイが相手あっても、ブラッドが相手だって覚悟していた。
けれど、盤上のチェスは一番キースの嫌な相手をぶつけてくる。
自分の育てている――――否、育てていた、メンティーをぶつけてくるとは。
下手すれば殺してしまうかもしれないのに。
「……キース」
心配しているディノを尻目にキースは2人を見つめる。
「なんだよ、お子様はとっくに寝てる時間だろうが」
「アハ、確かにおチビちゃんはそうかもね?」
「……」
「いつもは朝帰りするくせに今日は早かったんだろ?なんだよさっさと部屋に行って寝ろよな、そう思うだろ、ジュニア」
「……『キース』」
「……」
蒼天と灰色の瞳が、自分を見つめていた。
色の違うの双眸は、キースを罰する為に立っているのか、あるいは違うことを考えているのか。
「……当たれ!」
「っ!」
ジュニアのサンダーボルテックスが2人をめがけて落ちてくる。
キースのインビジブル・フォースで物質を移動して防いでもいいのだが、それでは第二波がくるだけだ。
それに、ジュニア自身に迷いがあるのか、2人を直接攻撃しようとはしていない。
ならば、撃たれる前にディノと2人で、ジュニアとフェイスを戦闘不能にすれば良い。
そう考える。
目を合わせるもなく、阿吽の呼吸でディノと走り出す。
キースはジュニアを、ディノはフェイスを、
だが―――
「甘いよ、キース」
「は?」
ジュニアのサブスタンスで雷鳴が轟く。
そう――――――『雷鳴』が、
「……っ!そういうことかよ!」
確かにチームワークについては教えた。
自分が自堕落なことや、ジュニアの移籍問題、骨折、ロストガーデンへの侵入などもあって、教え始めたのは他のセクターよりも遅い。
だが、ジュニアとフェイスは、キースの知る限り天才だった。
血統だけではない、努力する天才と、
兄という高すぎる壁があるだけで実力は発揮していないものの、確実に能力がある、音楽の天才。
セクターランキング、L.O.Mなんていうのはあくまでショーでしかない。
本当の実力というのは、そんな数値では計れない。
ましてや、ヒーローになって数ヶ月のルーキーが『雷の振動を操る』だなんて普通は思いつかない。
ジュニアの『サンダーボルテックス』によって落とされた雷鳴がフェイスの『ブレイクビーツ』によって振動を操られる。
確かにキースが冗談交じりで言った『合体技』だった
しかし、2人は実戦で確かに協力して繰り出している。
そうなれば、どうなるか――――――
答えは簡単だ。
「……っ」
雷による振動によって、地震が起きる。
けして、サブスタンスによって引き落とされる天変地異とはいかないが、それでも動きを封じるには充分すぎる使い方だ。
立っていられずに、ディノとキースはその場に膝を折る。
ああ、もう駄目なのか。
「……何やってるんだよ、クソメンター!」
「……ジュニア」
ああ、ディノを連れ出したことを怒ってるのか。
あるいは、結局自分がクソだったことを嘆いてるのか。
2人を棄てたことが悲しいのか、キースには解らない。
どれも、違う、ということを。
「『ディノ』を助けるんだろ」
「……」
「おチビちゃん」
「だったら!おれたちなんて、さっさと倒して、振り切らなきゃいけねえだろうが!」
「……ジュニア」
「……まぁ、自分の教えてるメンティーに負けるようじゃ、追っ手なんて振り切れないんじゃないの?」
「……フェイス」
ああ、そうだ。
その通りだ。
自分は何をしていたのだろう。
戦いたくない相手だと思った。
予想外の行動をしていたのは事実だ。
けれど――――――
どれも、勝てない理由ではない。
「……悪いな」
「……っ」
「……っ」
二人の傍にいて、もっと教えたいことがあった。
願わくば、AAになるまで見守りたかった。
でも、それも全て終わりだ。
振り切ったつもりで、振り切れてなかった自分の心を理解してキースは力を込める。
「「……っ」」
そうだ、フェイスとジュニアなら、解っていたはずなのだ。
だって、2人がメンティーになってすぐに、ジュニアが『こう』されているのを見たのだから。
「ディノ!」
「……っ」
負傷して、おそらくは尋問されて、体力が憔悴しているディノとは違う。
キースは万全だ。
それでも、2人に遅れを取った理由は、2人を傷つけたくなかった他ならない。
キースは2人がもう一度攻撃を繰り出す前に、かつてしたように2人の動きを止める。
「…………悪いな」
キースのサブスタンスは、物体であれば、それこそ人間でも動きを封じられる能力だ。
それは、敵であっても例外ではない。
申し訳ないと思いながらもディノの手を取り、そして走り出す。
「…… 」
「…… 」
「……っ」
その瞬間、2人が笑って、キースに何かを呟いた。
キースは振り返ろうとしたが、自分を制して走り出す。
後悔は要らない。
「……キース」
「行くぞ、ディノ」
ただ、手を取り合って、走り出すことを決めたのだから。
何度も何度も、1人で見つめてきた真っ暗な夜だって、間違えじゃなかった。
この手のぬくもりをもう一度手にするために進んできたのだから。
2人で選んだこの結末は、バッドエンディングかもしれない。
けれど、結末はまだ解らない。
遠い未来だって、いつか変えられる。示された答えがたとえ絶望だって、自分は変えて見せた。
どんな道だって、2人でいるのなら、眩しい道だから。
だから、きっと、大丈夫。
おまけ
「任務失敗したから、怒られちゃうね?おチビちゃん」
「寝てるところ叩き起こしておいて文句言われる筋合いねえだろ」
「でもいいの?多分、始末書書かされるよ?」
「それで済めばいいけどな。まぁ、ガミガミ暴君ビームスだってこうなることを予想してたんじゃねえの」
「……さぁ、どうだろうね」
自分の兄の事になるととたんに表情が冷めたものになるルームメイトにジュニアは笑いかけた。
「じゃなきゃ、普通はジェイとか自分が来るんじゃねえの」
「……嫌な役、押し付けたかっただけでしょ」
「そうか?……バカじゃねえんだから、メジャーヒーローがルーキーに勝てるだなんてふつう思わねえだろ」
「……まぁ、そうだね」
「友達なんだから、生きてほしかったんだろ」
「……どうだろ、アイツの考えることなんてわからないよ」
「……」
そういうフェイスにジュニアは何も言わない。
「……幸せになれんのかな」
「……さてね、HELIOSだってメンツがあるからある程度は追いかけるだろうし、別の州に行くのだって容易じゃない。ロストガーデンにはイプリクス。どう考えても楽な道じゃないでしょ」
「……だろうな」
「……」
それでも、願ってしまう。
自分たちの短い間だけでもメンターとして面倒を見てくれた、不器用でどうしようもない男で、酒浸りで、優しかった男にどうか、幸せが訪れますように、と。
「……はぁ、それじゃあ叱られにいきますかね。面倒だけど」
「言われたら自分でやればよかっただろって言ってやろうぜ」
小さな祈りを、胸に抱いて。
私は、エリオスの中で1部6章が一番メイストで雑な作りで嫌いなんですが(一番好きな人いたらごめんね)、ディノ復帰が適当すぎるのと、
フェイスがディノに懐かない理由とフェイスが捻くれてる理由は別なのになんで一緒にしてるのか?と思うからなんですよね……
何故、ディノがブラッドとフェイスは違うって言ってそれで懐くのか解らん……だって、フェイスが5章でディノを煩わしく思うのって大好きな居場所がディノが来た事で変わってしまったからの複雑さだからじゃないの……?と
なので「やりたいことは解る」が、その結論を急ぎすぎて雑になってるなぁ、と思ってます。
なので、6章で本来やらなきゃいけなかったエリオスでのディノの処分問題は適当で、2部1章読むと「あーディノもここまで丁寧にしてほしかった!」と思いましたね……
まぁ、私はぶっちゃけ、処分受けたヴィクターが不祥事組だと一番やったこと軽いと思ってるのでアレも意味解らないんですが、この辺がガバガバすぎんよ、エリオス君。
という理由でまぁ、本来エリオスの組織がしっかりしてたらディノ処分コースだよな……と思って書いた内容です。
キースは多分、現在(2部3章)なら死ぬほどディノと騒音で悩むだろうけどこの時点(1部5章)ならディノが世界の全てだと思うし、こうなるだろうなと思ってずっと書きたかった話ではあります。
でも、騒音やブラッド的には一応はHELIOSから「止めた」事実がないと生きていくのも面倒になると思うので見せかけとは言え……みたいな感じで戦闘シーンを入れました。
サブスタンスについて色々解らないので戦闘シーン適当で申し訳無い、上手くかけるようになりたい~~設定資料集出して~~~
ただ、もしも、ちゃんとしてる組織で「ディノを処分する」→「ウエストセクターがディノを処分撤回するためになんらかの任務を受ける」→
「フェイスがヒーローとしての実力不足を感じてしまう」→「よそよそしくしてたディノにブラッドと違うと言われて立ち直る」→
「ジュニアやキースにも『は?なんでブラッドが出てくるんだよ、お前はお前だろうが』的な事を言われフェイスが前を見る」→「ディノをウエストセクターに入れるメリットと、経過観察という名目で研修チーム入り」
……みたいな流れになってしまうと、もはやこのゲームはただでさえウエストチームがメインじゃね?と思われかねないのに、更にそうなってしまうので良かったのかもしれない…………
いや、でも、この組織は色々なところがガバガバすぎるのでこれからも突っ込んでしまうと思う……すまんね……