妄執の監獄 起

 弟に欲情したのはいつだっただろうか。
 弟に執着したのはいつからだっただろうか。
 生まれ落ちたその日にあったのは、嫉妬と憎悪と、少しの同情。
 灰色の瞳をえぐり取ってやりたいくらい憎かった筈のその存在を愛しくてしょうがないと思うようになったのはいつからだっただろうか。
 眠れない夜、弟を抱くことを夢見て、自慰行為をしたなんて事は誰にも言えなかった。


 朝になればすべて悪い夢だったのだと、自分杯はいい兄なのだと暗示をかけた。
 でも、心のどこかで思ってた。


 弟だって、一番好きなのは自分なんだから、と。
 その体を無理矢理でも開いて、曝いて、そして揺さぶってやっても彼は許してくれるんじゃないかとさえ思っていた。

 
 それが、すべて単なる妄執だと気付いたのはいつからだった?


「兄ちゃんの馬鹿!わからずや!」
「れ、レオ、ごめん、そうじゃなくて……」
「兄ちゃんなんて、もう知らないっ!」
 そう走って去って行く弟。
「おつかれさま!」と律儀に他のバンドメンバーには言って帰る辺りが弟らしい。


「……」
「あ~あ」
「レオがあれは可哀相だろ…」
「…だ、だって……!」
 クリス・ライトにとって、レオナルド・ライト・jrは目に入れても痛くないほど可愛い弟だった。
 弟だけが自分を見てくれる。
 弟だけが自分の味方になってくれる。
 可愛がれば、可愛がった分だけ愛情を返してくれる。
 そんな存在だった。
 生まれてきたときは憐れに思ったし、同時に嫉妬もした。
 ある意味、奪うことが父親への復讐だったのかもしれない。
 それでも、レオはレオナルドだった。
 幾ら、「レオはヒーローになんてならなくていい」と言っても、そこは譲らなかった。
 そんな弟が眩しくて、羨ましかった。
 ヒーローの道を諦めたのは、父親のせいじゃない。
 自分自身が勝手に重荷になっただけだ。
 だから、レオに勝手に重荷を渡してしまったことを後悔していた。
 いつかこの子は折れるかもしれない、傷つくかもしれない。
 だからそうなったら自分が助けてあげようと。
 そう思っていたのに。
 そうすれば、また兄弟仲良く、一緒にいられるじゃないか、とさえ思っていた。


「……弟離れするんじゃなかったのか?」
「……してるよ」
「してねえよなぁ」
 うんうん、と頷くバンドメンバーにクリスは困る。
 その通りだ。
 レオはまだ16歳だから、とヒーローに成り立ての頃は思っていた。
 周囲と上手くいってないように大丈夫だろうかと。
 けれど、17歳になる頃にはレオは周囲と楽しくしていた。
 更には自分以外の人間と別のバンドも一時的だが立ち上げた。
 よく、毎日一時間もよく電話するな、と周囲に言われるけれど、クリスからしてみれば、たった『一時間の電話』しか自分には残されていなかったのだ。
 もう大人なんだから、離れようと、互いに距離を置こうと決めた。
 でも、少しだけ。
 少しだけ、期待していた。
 レオのことだから、すぐに電話してくるんじゃないかと。
 自分と話したいと言ってくれるんじゃないかと。


 その結果がこれだった。
 先程、練習が終わって、次の新曲の話になった。
「ロックバラードとかいいよなぁ」
「レオはあんまり好みじゃなかったか?」
 いつもと違う曲調を出したい。ただそれだけの話だったのだ、最初は。
「そんなことないぜ。前はあんまり聞かなかったけど、最近は結構聞いたりするし」
「……レオ、曲の趣味変わったのか?」
「変わってねえけど……まぁ、確かに色んな曲は聴くようになったかも」
「……そっか」
 お互い別々の時間を過ごすようになったのだから、当たり前だろう。と自分でなんとか納得させる。
 だって、そうしようと他でもない自分が言ったのだから。
「~~とか、~~~のバンドの曲とかいいよなぁ」
 前だったら聞かなかっただろうバンドの曲。知らないレオが増えていく、ということはこういうことだ。
 でもお互いそうすると決めたのだから、と何度も何度も言い聞かせて。
「ってことは、ラブソングの良さも解ってきたのか?」
「……え?」
「おいおい、そんなことないよな、レオ」  レオはまだ初恋だってまだなんだから、と。  でも、バンドメンバーは別にラブソングが好きか嫌いか聞いただけだ。  何をムキになっているのだろうと思う。  自分でも解ってる。  自分勝手な理由で大事に大事にしていた鳥を、離して、しばらくすると、まるで誰かが保護して飼われているのを見る気分だ。  顔を真っ赤にさせていくレオを見て、心臓がわしづかみされるような気持ちになる。
「……わ、かる…」
「っ…」
「レオ~もしかして、恋人でも出来たか?」
「最近大人っぽくなったもんなぁ」
 友人達は当たり前のように弟の成長を喜ぶ。
「……そんなわけないだろ」
「兄ちゃん」
「レオはまだ子どもなんだし、恋人なんてまだ早いよ」
 だって17歳だ。
 まだ子どもだ。
 レオは俺がいなきゃ、そんな自分勝手な気持ちが溢れ出す。
「そんなことないだろ?お前だって17歳の時はグレてたし」
「っ……お、俺のことは関係ないだろ」
「レオだって、恋人がいてもおかしくないよなぁ?」
「……」
 違う。
 せめて、片思いであってほしい。
 好きな人がいる、とだけ言ってくれればいい。
「……そんなわけ」
「お、おれだって!」
「……」
「おれだって、恋人くらいいる!」
 その言葉にどん底に落とされた。
「……どんな?」
「え?」
「どんな人?」
「どんなって……」
 その言葉にレオは目を泳がせる。でも、一瞬目を閉じて、それから自分と同じ青色の瞳と――――あの人の色が、目を開いて、自分を見た。
「だらしなくて、すぐサボるし、人のことをからかってきて、ムカつくけど、でも……」
「……」
「すげーやさしい」
 花が開くように、とはこういうことを言うのだろうか。
 自分に見せたことがないであろうその表情。
 全身でその人が好きだと言っているそれを、クリスは否定したかった。
 だって、ずっと兄ちゃんが好きと言っていたじゃないか。
 ずっと、ずっと自分が守ってきた。
 大切にしてきた。
 けれど、それは本当にこの子の為だっただろうか?
 でも、この子だって自分を愛してくれたじゃないか。
 生まれてずっと大切にしてきた存在を何故掠めとられなければならないのか。
「……それは」
「兄ちゃん?」
「レオの前だけそうであって、本当は違うかもしれないじゃないか」
「そんなこと、
「レオの知らないところでは酷い人かもしれないし、実はレオを騙してるかもしれないだろ?」
「……なんで」
「レオ?」
「なんで、そんなこと言うんだ?」
 周囲が「クリス」と自分を呼ぶ。
 でも、止められない。
 だって、弟が自分から離れていくだなんて考えた事はなかった。
 自分の隣にいつだっていてくれた。
 かわいい、弟だった。
 いつだって、自分を一番にしてくれる、そういう子だった。
 きっと、自分が言えば、そう思っていたのに、
「……そんなことない!」
「レオ?」
「兄ちゃんは、あいつのこと何もわからねえし、何も知らないじゃねえか!」
「……レオっ、兄ちゃんは、ただお前が心配で」
「おれだって、もうこどもじゃない!」
「なっ……レオ、まだおまえは17歳で」
「おれだって働いてるし、自分の好きなやつくらいちゃんと選べるし!」
「……っ」
「なんで、兄ちゃんにもよかったねって言って欲しかったのに、どうしてそういうこというんだよ……っ」
「っ…」
 どうして?
 どうして、そんなの、そんなの――――――
「兄ちゃんの馬鹿!わからずや!」
 おれが、おまえを、
 そう思った瞬間、理性がそれを否定する。
「れ、レオ、ごめん、そうじゃなくて…」
「兄ちゃんなんて、もう知らないっ!」
 そう言って走って行く弟はもう遠くに行ってしまった。
 昔、外で何かあって自分の腕の中に飛び込んできた弟はもういない。

 今は自分と衝突して、違う人間の腕に行くのかと思うと、心臓が焦げるかと思うほど熱かった。


 今すぐおいかけて、その腕を掴み、ベッドに押し倒したいだなんてそんな願い、誰にも言えるわけがない。
 許されるはずのないことだった。





「……っ」
 部屋に戻るとキースもディノもいなくて、そういえばジェイとブラッドと酒を飲みに行くのだと言っていたなと思い出す。
 同室の男はクラブでイベントがあると言っていたので今日は1人だ。
「……兄ちゃんの馬鹿」
 そう言って、自分のベッド――――ではなく、同室相手の男のベッドで横になる。
「……」
 1人の寂しさを埋めるように枕を引き寄せて、匂いを嗅ぐ。
「……んっ」
 高いんだろうなと解る良い匂いのシャンプーと、ほのかに残る香水の香りがする。
 兄と喧嘩していることで頭がいっぱいになっていたのに、すでに脳は匂いに支配されて違う事でいっぱいになる。
 シャワーを浴びないと、と思っているのに、もっともっとと、本能が告げて、ジュニアは枕に顔を埋めた。
 バタバタと足を動かして脳裏に浮かんだ事を消そうとするのに、顔を上げようとしないから結局意味が無い。
「……」
 本格的に体が火照ってくるのを感じて、これ以上はまずいと、ジュニアは体を起こした。
「ただいまー」
「っ」
 同時に、自分が思い描いていた男の声がして、ジュニアの体は跳ねた。
「あれ、おチビちゃん」
「お、おかえり……」
 一瞬驚いた顔をしつつも、自分のベッドにいる恋人を見てフェイスは楽しげに笑う。
「誰もいないから寂しくなっちゃったわけ?」
「そ、そんなんじゃねえし!」
「なら、なんで俺のベッドにいるわけ?」
「……っ、か、帰る!」
 ゆるやかに勃ち上がっているモノを悟られたくなくてシャワーでも浴びよう、と思っていると、
「だーめ」
 抱きしめられて、逃げられないようにされてしまった。
「……っ」
「アハ、俺とシタかった?」
「……っ、そうだよ!悪いかよ!」
 抱きしめられて、いつもの香水の香りがした。
 でも、枕やベッドで漂ってくる香りではない。
「駄目なんて言ってないでしょ」
 そう言って、フェイスの顔が近づいてくる。それにいつもなら応える―――のだが、今日は嫌だった。
「……おチビちゃん?」
「やだ」
「やだって……なにそれ、わがまま?酷すぎない?」
「わがままなんかじゃないし!」
「じゃあ何?気分屋?」
 さっきまで自分だってキスしてほしくて、その先もしてほしくて溜まらなかった。
 でも今は嫌だった。
「……だって」
「……」
「おまえ、知らない匂いがする」
「え……」
 抱きしめられたら嬉しくて、もっと欲しかったのに、漂ってきたのは知らない匂い。
 女モノだと解る香水が沢山する。
「あ~……イベントで絡まれたからそのせいかも」
「……うん」
「浮気とかじゃないんだけど」
「わかってる」
「……」
「でも、嫌だ」
「……」
「だって、お前はおれの、なのに」
「……うん」
「なんか、違うヤツのものなんだ、みたいに勝手に匂いづけされるの」
「……あ~~~~~~もう~~~~」
「く、クソDJ?」
 なんで拒むのだろう、と半ば腹立たしく思ってたのに、そんな風に言われたら怒れなくなってしまう。
「……おチビちゃんは、お風呂入った?」
「……まだ、だけど」
「じゃあ、一緒に入ろ」
「……」
「おチビちゃんも、お兄さんたちの匂いが移ってるかも」
「……っ」
「……おチビちゃん?」
 『お兄さん』という言葉に忘れたかったコトを思い出す。
 恋人の様子に何だろうかとフェイスは思うが、それよりも恋人と抱き合えないこの状況のほうが嫌で、「お風呂に行こうか」と誘う。
 それに対して少しだけ頬を染めながらも、ジュニアは頷いた。
 手を繋いで、シャワー室に入り脱ごうとする恋人に「脱がせてよ」と言う。
「……ん」
 部屋着のジャケットを腕から引き抜く。
 次は黒いシャツ、という前に「次はおれの番だろ」と楽しげに笑う。
 ゆっくりと自分よりも一回り小さい、けれど色んなものを守っている、フェイスにとって大好きな手が伸びてきてゆっくりとボタンをひとつひとつ外していく。
 こんなもどかしい作業すら幸せを感じるのだからしょうがない。
 たまらなくなって、そのままキスをしたいけれど、香りが嫌だと言われてしまってはしょうがない。  自分だって、血の繋がっている兄や、ジュニアを弟のように可愛がってるバンドメンバーだとは解っていても匂いがついているのは嫌だ。  早く洗い流したいし、お互いの香りをしみつけたい。
 まるでマーキングのようだけれど、その行為が愛しかった。
「はい、手をあげて」
「ん」
「……」
「……あのさ」
「うん?」
「届かねえからかがめよ!」
「ああ、おチビちゃん、ちっちゃいもんね」
「キィーーー!わかってて言うな!って、自分で脱ぐな!」
「アハ、まぁ、おチビちゃんに脱がして貰えるのは嬉しいんだけど」
「……なんだよ」 「キスも出来ないの、辛いから、ね?」
「……」  そう言って、ジュニアのズボンの紐を解いて、少しだけズラしてやればやればそのままストン、と床に落ちていく。
「……馬鹿」
「また、明日にでもしてよ」
「……うん」
 全部脱げば、少しは香りが弱まっているのかジュニアが抱きついてきてくれた。
 そして、そのまま帰ってきて初めてのキスをした。


 2人で風呂場に入ると男2人だけなので少しだけ狭いけれど、それでも十分な広さだった。
 シャワーのコックをひねり、温かなお湯が2人の体を濡らす。
 いつものトレーニングやパトロールの疲れほどではないが、それでも外に行って人に会うというのはそれだけで精神が疲労する。
 温かなお湯により、疲れが少しずつ流れていくように思えた。
 ジュニアは後ろから抱きしめてくれるフェイスのぬくもりを感じながら、同じようにフェイスもジュニアのぬくもりを感じながらお湯の心地よさを噛みしめる。
 お互いに髪の毛を洗えたらいいのだが、さすがにそれは難しいので先にフェイスがジュニアの髪の毛を洗ってやることにした。
「それで?」
「……なにが?」
「お兄さんと、何かあった?」
「……」
 ボトルからシャンプーを取り出して、フェイスはジュニアの髪の毛を洗うために泡立てる。
 ディノと、兄と一緒だと言っていたシャンプーは父親がかつて使っていたという事からか、大好きな2人と一緒のシャンプーではあるモノの別のシャンプーを使いたいと言っていた。
 A班の仲間のシャンプーの匂いを嗅がせて貰ったようだが、自分としては「他の男じゃなくて、自分と一緒でよくない?」と思った。
 けれど、それを言えば「だって、お前の、滅茶苦茶高いし……それにキースが使ってたら怒ってただろ??」と言い換えされた。
 別に使われるのが嫌、というよりは勝手に使われてるのが嫌だったというだけで。
 それに、他の人間だったらともかく、ジュニアだったら話は別である。
 あの過保護を卒業としている兄は気付いているだろうか。
 ジュニアのシャンプーがフェイスと同じもので、もう両手で数え切れない程、フェイスとセックスしていて、何もない夜も同じベッドで寝ているということを。
「……兄ちゃんに」
「うん」
「おれに恋人なんて出来るのは早いって言われて」
「……へぇ」
 相変わらずだな、お兄さんと思いながらも話を聞く。
 絹のような髪の毛を傷つかないように洗い続ける。昔は髪の毛を洗ってあげたのは話の中に出来たジュニアの兄だっただろう。
 けれど、今、一緒に風呂に入って洗ってやれるのは自分だけだ。きっと、これからお互いのどちらかが死ぬまでずっと。
 まぁ、特別にウエストセクターで旅行に行った時にキースかディノが洗う事だけは許してあげてもいい。自分も二人の事は好きだから。
「……それで、おれにだって恋人はいるって言ったんだ」
「……言ったんだ」
 いつかはこんな日は来ると思っていたが、それでも意外に早くて驚いた。
 反対されたのか落ち込んでいるのか、と思ったがどうやら違う事をフェイスは次の言葉で知る。
「……そしたら、おれのこと騙したり、酷いヤツかもしれないって……」
「……へぇ……」
 まぁ、あのブラコンお兄さんなら言うよね、と思った。
 けれど、ジュニアの反応は別だった。
「おれ、お前がそう言われたの嫌で」
「……」
「確かに、昔はクソ野郎でムカツクし、仕事はしないし不真面目だったけど……」
「うん……」
「今は、ちゃんと頑張ってるし、ヒーローしてるし……」
「……うん」
「意地悪で腹立つけど……でも」
「……」
「すっげえ、やさしい」
 そうぽつりと呟く言葉にお湯のせいじゃない熱さを頬に感じる。
 そして、あの兄さんではなく、自分の事を選んでくれたのだという優越感が胸を占める。
「……流すよ」
「おう」
 排水溝に泡とお湯が流れていく。
 自分達の兄弟はちょっと特別だ。
 何で未だに遠ざけられたのか解らない自分と、無意識に「兄に甘えること」で、「兄を守ってきた」ジュニア。
 最初は過保護な兄だとしか思ってなかった。
 自分と同じように父親から比べられて、その結果挫折してしまった人だと。
 けれど、ジュニアに対する態度を見ていて、少しずつ違うのではないかとフェイスも思えてきた。
「次はおまえの番」
「うん」
 シャワーチェアに座るように指示されて、フェイスは素直に指示に従う。ジュニアが鼻歌まじりにフェイスの髪の毛を洗う。
 雑そうなのに、その指先は思いの他優しい。
 そう、自分が教えたのかと思うと嬉しい。
「……」
 あのL.O.Mの事件から自分とジュニアの時間は増えた。
 恋人になってからは更に。
 でも、それは兄との時間が、つまりは一時間の長電話がなくなったからだ。
 入所した当初は「ブラコンすぎるなぁ」と思って呆れていたが、冷静に考えればおかしい。
 そもそも、ジュニアの口ぶりからすると、父親から「ヒーローになるためにお前を作った」と言っている感じではなかった。
 あくまでジュニアが推測しただけだとは解る。
 でも、その推測に至った材料を提供したのは誰だろうか。そんなのは考えなくてもわかることだった。
「……お前の髪の毛、綺麗だよな」
「……」
 バンド活動だってそうだ。
 ジュニアの腕ならば、別のバンドでもやっていける。
 なのに、わざわざ実の兄とやる理由はない。
 自分も幼い頃はブラッドのことが大好きで、いつも後ろをついて歩いていた。
 甘やかされていたと思うが、それを考慮してもジュニアとクリスはおかしい。
 アカデミーに入ったブラッドと自分も電話していたが、毎日一時間なんて電話はしなかった。
 アカデミーに居た頃は、ジュニアは友だちが居なかったらしいからしょうがないかもしれない。
 けれど、HELIOSに入って、セクター内の雰囲気が良くなり、A班の仲間とも仲良くなっていった。
 現に、時折寂しくは思っているようだが、ジュニアは電話がなくても楽しそうにしている。
 なら、その電話に、時間に―――――『きょうだい』に依存していたのは、ジュニアではなくて、
「……流すぞ」
 ゆっくりと流れていくお湯の音に、自分の思ってる地獄のような考えも流れれば良いと思う。
 けれど、そうとしか思えなかった。
 ただの依存心ならばいい。
 けれど、そうでないのであれば。
 クリスがジュニアに抱いているのが恋愛感情だとはさすがに思わない。
 けれど、もっとまずいモノだとしたら――――


「……クソDJ?目にはいったのか?」


 ぼんやりしていると、そう言われて我に戻る。
「……おチビちゃん」 「……うん?どうかしたのか?疲れたか…?」  そうだとしても関係ない。自分の大切なおチビちゃんは自分が守ればいい、と思い直す。
 大丈夫だよ、と言おうとして、けれど、思い直す。
「……うん、疲れちゃったみたい」
「……そ、そっか…なら……」
「だから、ね、おチビちゃん」
「ぴっ!」
 耳元でそっと囁けば、素直に反応してくれる。
 何度やっても慣れない様子が可愛いと素直に思う。
 ヒーローとしての彼は誰よりもキラキラしていて、格好良いのに、自分の腕にいるときはこんなに可愛いのだと思うと世界中に言って回りたいし見せつけたい。
 でも、誰にも盗られたくないからずっと腕の中にいてほしい。
「……おチビちゃんが洗ってくれる?」
「……っ」
 そう言えば、顔を真っ赤にして、でも、恥ずかしそうに頷いてくれた。


「……んっ……」
 まるでフェイスの手にボディソープをつけてタオルかスポンジのように使う。
「……あっ…」
 フェイスの手を使って自分の胸にボディソープを塗りつける姿は誰がどう見ても厭らしいと思う。
 こんなプレイ、誰が考えたんだと思ったら、自分を満足させたくて、自分達の真面目な方のメンターに聞いたというのだからまた驚いた。
「っ……やぁ…」
 我慢できなくて、乳首を摘まんでやると「洗えなくなるだろ……」と可愛く睨まれてしまう。それがまた好きでついやってしまうのだが。
「んん……っ」
 ぬるぬるとした胸を自らフェイスの体に合わせて擦りつける。
 鍛えているとはいえ、まだ成長途中の、筋肉になりにくいその体。
 ヒーローとして鍛えているその美しい肢体を、今は自分を気持ち良くしてくれる為に使ってると思うとかすかな支配欲が満たされる。
 そして、ジュニアの可愛らしい陰茎が、無意識なのだろう。フェイスの腹にこすりつけてきて、可愛くてたまらない。
 ジュニアの手で、指で、股で、胸で、フェイスの腕が、指先が、背中が洗われる。
「……っ」
 擦りつけているだけなのに、ジュニアの乳首が真っ赤に勃起しているのが解る。
「……ありがとう、おチビちゃん」
 もう辛いのだろう、と思って御礼を言って頭を撫でてやると、潤んだ瞳がこちらを見た。
「……んっ…」
「今度は、俺がおチビちゃんを綺麗にしてあげるから」
「…あ……でも…」
 もう限界だと全身が言っていた。
 焦らして泣きそうな姿を見るのもいいけれど、さすがに今日は可哀相だろうと思い、「お尻、こっち向けて」と言えば理解したのか顔を真っ赤にする。
「そっちに手をつけて、お尻上げて」
「……あっ」
 言った場所には鏡が目の前にあって、慌ててフェイスを見るけれども仕方ない。
 風呂場はそこまでスペースがない。
 お湯を背中にかけるとそれすらの感じるのか、口から喘ぎ声が漏れる。
「あっ……あぁ…」
 泡が流れたのを確認してから、両手で尻を開けば、縦にぱっくりと割れている後孔は期待するようにパクパクと蠢いている。
 ジュニアがそういう体質なのか、あるいはサブスタンスの影響なのかは解らないがピンク色のそれはいつまでたっても初々しい色を保っている。
 きっとキースに聞けば解ることなのだろうが、さすがに慕っている2人のことでもそこまで知りたいとは思わないし、ジュニアの後孔も自分だけが知っていれば良い。
「ぴぎゃ!っ、あ…あ、あぁ……あん、あ…」
 変わらない赤ん坊のような色を保ちつつも、確実に卑猥になった媚肉を堪能するように皺一本一本確かめるように舐めると
「や、やめ……あっ」
 端整な顔をしたフェイスに自分の汚いところを舐められているというのが恥ずかしいのかジュニアの陰茎が更に反応する。
 シャワーの音じゃない水音が風呂場に響き渡る。
 チュパチュパと舐められる音と、時折吸われる音。
 崩れ堕ちそうになる体を、鏡の横の壁に手をついてジュニアは必死に耐える。
 後孔の周囲をなぞられるだけで、ひくひくと期待しているそこは、ピンクから赤くに熟れる。
 それに口角の端を上げながら、フェイスは指を肛門に沿わせて…其処を左右に広げる様にして穴をぱっくりと開いた。
「あ、あぁ、あ…っ」  フェイスの指が弄ぶように左右に動きながら、奥へ奥へと入り込み、ジュニアの肉襞を指の腹で押される。
 自分でも知らない『キモチイイトコロ』。
 フェイスだけが知っているそれに、ジュニアの体に電撃のような、甘美な刺激が走る。
 すでに2本挿入しているそこに、3本目を挿入すればなんなく受け入れる。バラバラに動かせばたまらないのか喘ぎ声を漏らす。
 指先でねちねちと肉襞が弄られ、その度にジュニアの中心が甘く疼く。
 けれど、それだけではなく、自分の最奥にフェイスのものを挿入してほしいと、物足りないと訴える。
「っ…もう、いいからぁ……」
「だーめ、痛い思いしたくないでしょ?」
「……っあ、あぁ!や、やぁ…!」
 やがてフェイスの長い指が、最奥のしこりに触れる。
「あ、あぁぁ…や、やめ、やぁ…!」
 秘部の奥に触れると、嬉しくてたまらないのか、我慢出来ずにジュニアの陰茎から白濁した精液が溢れ出てくる。
 でも、それでは足りないと、皿に指の腹で捏ねれば、シャアーーーと、無色透明な液体が流れていく。
 潮吹きだ。
「……っ…あ、あぁ…」
 何度も見た光景なのだから気にすることもないだろうに、と思うがジュニアは毎回羞恥心を覚えるらしい。
 実際は尿失禁と同じだから恥ずかしいらしいが、自分としては陰茎に触れなくてもここまで感じてしまう恋人が可愛くてしょうがない。
 その証拠に後孔は開閉を繰り返し、挿入されるのを待っている。
 ここまできて嫌だと言われてしまってはたまらないので、指を抜いて指とは比べものにない質量のものをあてがう。
「あ……っ」
「おチビちゃん、前を見て」
 可愛い恋人の顔が見れないのが辛くて、前を見るように促す。
「……っ」
「おチビちゃん」
「……っ」
 ゆっくりと落ち着けるように後孔に肉棒を当ててやれば何を言いたいのか解ったのがおずおずと顔をあげた。 「アハ、全部見えてるね?」
「…あ……」
 ヒーローとしての自分。
 バンドマンとしての自分。
 そのどれでもなく、ただフェイスのものが欲しくて、まるで雌に成り下がったような顔をしている自分が鏡には映っていた。
 それが恥ずかしいし、みっともないけれど、鏡越しだけれど、自分の好きな恋人はその姿が好きだという。
 こんな姿見ないで欲しいと思っていたし、今でも思うけれど、「好きだよ」「可愛いよ」と言われれば、気分がよくなってしまうし、それでいいかと思ってしまった。
 ほだされてしまったのか、あるいは自分が変わったのか、そのどっちもかは解らない。
「あ、あぁ……」
 腹に右手を回されて、体を支えられて、左手はジュニアの左手と重なった。
 後孔に肉棒の先端が押しつけられる。
 やっと挿入してきたそれが嬉しくて、無意識にぎゅうぎゅうと締め付ける。
「あ、あぁ……」
「相変わらず、キツくてしまりよすぎでしょ……」
「あ、だって、だって……」
「しょうがないか、おチビちゃん、えっち、好きだもんね?」
「……っ、んん……だって、ふぇいすが…」
「俺が?」
「ふぇ、…っすが、ふぇいすが、すきだからぁ……」
「……俺とだから好きなんだ?」
 その言葉にこくこくと首を縦にするのを見て、ご褒美と言わんばかりに最奥に肉棒が打ち付けられる。
「あ、あぁ……!」
 ずずずずず、と音でもするんじゃないかと思う程締め付けてくる腸襞に逆らって、フェイスの肉棒が亀頭が抜けてしまうんじゃないかと思う程に入り口まで戻ってくる。
 そして、また容赦なく前立腺をめがけて打ち付けられていく。
「あ、あぁ・・・」
「気持ちいい?」
「いい、あぁ……いい、きもちい」
 ぴったりと腰を付けたまま円を描くように動かせば、びくびくと体が跳ねる。
「あ、あぁ……」
 更に気持ち良くしてやりたくて更に奥の精嚢を擦ってやれば射精しないまま、イったのか、びくりと体を震わせた。
「……んっ……あ……」
「おチビちゃんのナカ、ぎゅうぎゅうにしめつけてくるね?」
「あ……あぁ……」
「すっごく気持ち良さそうな顔してる」
「……っ、あ、…んんっ…、あっ……あぁ…」
「……っ、はぁ……アハ、奥まで欲しいって」
「…あ、だ、だめ、や……だめ……や、やぁ…!」
 嫌だと頭を横に振りながらも、体は欲しいと結腸が降りてくる。
 亀頭を結腸口に擦り付けるだけでジュニアが真っ白になって何も考えられなくなる。
「ほら、おチビちゃんのナカに入ったよ」
「……あ、…ぜんぶ……」
「そう、全部」
「……っ」
 ジュニアの体が小さいからか、あるいはフェイスの肉棒が大きいからなのか、どちらもなのかは解らないが本来なら届く筈のない最奥まで届く。
 本来ならば排泄につかうだけのその場所は、フェイスの肉棒の形にすでになっていて、自分のモノではなくフェイスを主だと思っているような気さえする。
「あっ、あぁ、あ……」
「ほんと、かわいい、おチビちゃん、かわいい」
「や……っやぁ…」
「嫌じゃないでしょ?こんなぎゅうぎゅうにしめつけて」
「…や……きす、きすして…」
「……っ…あぁ…ほんと……」
 振り返って、潤んだ瞳で訴えてくる恋人が可愛くて、右手に力を込めて、そのまま後ろのシャワーチェアに座る。
 体位を変えたせいで、更に奥に肉棒が入ることになってその衝動でまた、ジュニアの精液が溢れた。
「んっ、んんっ…」
 口づけて、下唇を啄み、舌を絡めればたまらなく自分を追いかけてくる姿が愛しい。


 彼の兄だって、こんな姿は知らない。
 知られてたまるものか、と思う。


 気付いていないだろうが、無意識に腰を動かすジュニアの姿に自分がこんな風にしたんだと思ってしまう。
「……っ……おチビちゃん…」
 ずっと見ていたいが、もう限界が近くて、自分だけの呼び名を呼ぶ。
「あ、あぁ……あ、あ…」
 より早く腰を動かせば、離れたくないと言いたげに腸内がフェイスの肉棒に抱きつくように締め上げる。
 そして、最奥に何度か突きつけて、フェイスの動きが止まると同時に
「……、あぁ……あぁぁ…」
 濃厚な精子が最奥に出される感覚に震えながら、ジュニアはぢょろろろろ……とお漏らしをした。
「……あ」
「……」
「……」
 ぼーっとしている恋人を後ろから抱きしめて「お風呂、入ろうね」と言えば、首を縦に振った。
 すっかり自分の匂いが染みついたことに気分良くしながら、ゆっくりと肉棒を抜く。
「あ……」
 寂しいと言いたげに、まだ締め付けてくるジュニアの後孔はちょろちょろとフェイスの精液が零れていく。
 排水溝にお湯と一緒に流れるそれを見て、
「おチビちゃん」
「……ん…?」
 正面から抱きしめなおす。
 恋人の夜はまだ始まったばかりだ。  


   

弟離れがテーマのお話です。人様に贈ろうと思ったのですが二話以降読まれていないようだったことと、
他の方からもあまり、反応がないのでTwitterでもpixivでも取り下げたのですが、自分ではそれなりに好きな作品なので細々と書いておきたいなと思っております。