※AAA昇進後設定。
※ジュニアがフェイスを「フェイス」、フェイスがジュニアを「レオナルド」呼びしていますので苦手な方は注意を。
おこちゃまの面倒。
おこちゃまのお守り。
たった2、3歳。
されど、その年齢の差は大きくて、どんなに頑張って背伸びしても届かないのだといつも思わされるばかりだった。
どうしてこんなヤツ、好きになったんだろうと思わされる。
どうせならもっと優しい奴を好きになれたら良かったのに、と思った。
諦めたいのに、諦められなくて。
毎日、好きになっていくこの思いをどうやったらいいのか解らない。
好きだと言って、いっそ振られることが出来たらすっきりするだろうけれど、この共同生活でそんなことをしたら自分以外の人間も気まずくなることはわかっていた。
だから心の奥の宝箱にしまって、鍵をかけた。
毎日、募る思いを必死で仕舞った。
だって、必要なのは同僚で相棒である立場だ。
恋人になりたいだなんて思った事は無い。
だって、多くの彼女との関係を清算して、ヒーローになりたいと思った彼を応援したい気持ちは嘘じゃなかったから。
『ヒーロー』である『フェイス・ビームス』が自分は好きなのだから。
「……フェイスのこと、ルーキー時代、好きだった」
そう思って数年。
嘘をつくのも上手くなって、うるさいと言われていた自分も落ち着いた。
酒も飲めるような年になった。
それでも、あの頃のように「おこちゃま」じゃなくなったかと言われたら自信がない。
まだまだ、子どものような気もするし、大人になった気もする。
でもこの気持ちはずっと続いていた。
誰にも知られない恋が可哀相で、誰かに知って欲しくてつい零れてしまった。
酒の席だから何を言っても許されるだろうと思って。
「……」
結論から言うと、場が凍った。
ウィルなんか、持ってたグラスを壊した。
ジュニアは、こいつら慌てすぎだろ、さっきまで酔ってたくせに、と思った。
元々なんでこんな爆弾を投下したのかというと、そういう流れだったからだ。
たまたま、8人全員がオフで、それじゃあ飲みに行こうと来た酒の席。
13期は仲が良かったか、といわれたらそうだった気もするし、そうでもなかった気がする。
それでも、やっぱり同期というのは特別だ。
誰かしら予定が合えば飲みに行くし、遊びに行くこともある。
チームワークに力をいれた、と当時のメンターリーダーが言っていたことはおそらく実っている。
男が8人もいれば、馬鹿をやる。
酒が入れば酔いも回る。
ジュニアは13期で一番酒に強かった。メンティーであるディノと同じくらいザルだった。
全員はしゃいでるなぁと思っていると、いつものようにアキラとレンが昔のコトを持ち出して、ウィルが収めて、ガストが自分のくだらない話をした。
ビリーが流れで『それじゃあ、アキラっちとレンレンが可哀相だから全員のヒミツ聞きたいなぁ~』と言って、フェイスが『ちょっと、それで儲けるつもりでしょ』とつっこむ。
そんな流れで、どうせ酒の席だしまぁいいかと思って言った。
結果としてそれは爆弾だったらしく、酔って騒いでた男達が全員酔いの覚めたような顔をしてる。
「マスター、おかわり。お任せで」
空になったカクテルグラスを翳すと、カウンターにいた新しいカクテルを作ってくれる。
カンパリオレンジと言うオレンジ色の綺麗なカクテル。
オレンジの甘酸っぱさが口に広がってなかなか美味しいと思えた。
「……あ、あのさ、レオナルド……」
もう、稲妻ボーイとはなかなか呼ばなくなったビリーが口を開く。
「なんだよ」
「それってDJのことが好きだったってこと…?」
「あ?そう言ってるだろ」
何故か慌てたように確認するビリーを指刺して、ビリーの隣にいるグレイに「こいつ、かなり酔ってるぞ」と言ってやる。
けれど、何故かグレイも慌てているようだった。
「ええと……それって諦めちゃった…の…?」
「諦めたっていうか、『おこさまの面倒を見るのは嫌』とかよく言われてるし、伝えたところで気まずくなるだけだからって思った。まぁ、当時のおれはガキだったしな」
考えたら、色々キースやディノにも迷惑かけてたよな…と呟くが、グレイの言いたい事はそうではないらしい。
目を彷徨わせるグレイにジュニアは首を傾げた。
「……ミラトリコンビは何かいいたいのか?」
「いや、えっと……ジュニアくん…」
2人を指さしてウィルとガストのほうを見ると、何故か固まっていた。
「……その、大丈夫なのか?」
「なにが?」
そう言ってる間にカクテルがまたなくなった。
仕方ないと、ジュニアはまた手あげて、マスターにおかわりを注文する。
すぐ様、自分の元にやってくるジンライムと呼ばれた飲み物は度数が強くアルコールの味を感じた。
「……」
なんか変だなぁと思っていると、何故かアキラとレンまでおかしな顔をしていた。
一体思いながら、
「なぁ、フェイス。こいつら変なんだけど」
隣にいる相棒に尋ねると、何故かフェイスも顔を時計が止まったように身動きせずにただジュニアを見ていた。
なんだか変だな、と思っていると、
「……帰る」
「え?」
「帰るよ、レオナルド」
手を握られて、そのまま立ち上がらされる。
「ちょ、ちょっと……フェイス?」
さっきまで眠そうに目をこすってたのになんなんだ、こいつと思いながらも、みんなに「ごめん」と言って、店を出る。
イエローウエストの夜道は煌びやかで眩しい。
夜だということを忘れてしまうくらい静けさの欠片もない。
けれど、ルーキー時代から過ごしたこの場所は自分のヒーローとしての故郷のようでとても馴染みが深い。
まるで昔に戻ったみたいだ、と思いながら、背中を見る。
「フェイス、フェイス!ちょっと待てって」
どこにむかうのか解らなくて、名前を呼ぶけれども振りかえらない。
そのまま人通りのない路地裏へと入った時に、さすがにこれは、と思った。
「……クソDJ!」
「……っ」
久しぶりにその呼び方で呼べばおそるおそる振り返る。
「……おチビちゃん」
「久しぶりだな、その呼び方」
「……」
「誰がチビだ……って結局、おまえの身長追い越せなかったしな」
まぁ、言われても仕方ないか、と肩を竦める。
「……で、どこに行こうとしてたんだよ」
「……どこって……」
「おまえの家、別の方向だろ」
「……本当だ」
よほど焦ってたらしい。珍しいと思いながら、「送ってやるよ」と言えば、「……泊まっててよ」と言われる。
仕方ないなぁと思いながら2人、肩を並べて歩いた。
「……あのさ」
「うん?」
「おチビちゃん、俺のこと、好きだったの?」
「……あぁ、さっきの話か」
好きだった、ではない。
本音を言えば、今でも思っている。
毎日、思いは募っていく気がする。
でも、それは叶わないものだと、届かない恋なんだって諦めた。
「……そうだよ」
「……どうして」
「本当だよな、なんでなんだっていっつも思った。好きになる理由なんてひとつもねえのにさ」
でも、きっかけだったらあった。
ダイナーで失敗を庇ってくれた時、
ルーキー研修一年目のルーキーリーグで自分を守ってくれた背中。
飄々としていても、手を抜いたり、サボったりしても、いざというとき守ってくれるこの背中に追いつきたいと思った。
「そうじゃなくて!いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくて……」
「……フェイス?」
「……なんで、言ってくれなかったの」
「なんでって……」
そんなの決まってる。
「そりゃあ、おこさまのお守りはお前嫌だって言ってたじゃん」
「……」
「それに、お前いっつもうるさいのは嫌って言ってたし……」
「そんなの売り言葉に買い言葉でしょ…」
「いや、でも、クラブのヤツとか、グレイやビリーと一緒にいる方が楽しそうだったし……」
「そんなことなかったよ」
「……ま、まぁ、いいじゃねえか。昔のこと―――
「昔じゃないよ」
「……」
そう言うと、マゼンタの瞳が、ネオンの光よりもずっと輝いて見えた。
でも、その美しい瞳は不思議と冷たくて、悲しそうだった。
「……俺のほうが、振られたと思ってた」
「え」
「研修が終わって、おチビちゃんと一緒に住もうって言ったら断られたし」
「いや、あれは、お前、思ったよりも借りた家が広かったって話だったし……それに悪いだろ?」
「悪かったら誘わないし、あんなの遠回しな言い訳だってわかるでしょ」
「いや、わからねえだろ……」
「二人きりでデートしようと遊びに誘ったら、キースとディノを呼ぶし」
「だって、4人も一緒のほうが楽しいだろ…?」
「俺はっ」
「……」
「俺はずっと、おチビちゃんのことが好きなのに」
そう必死で言うフェイスの瞳は泣き出しそうだった。
「……おチビちゃんは、レオナルドは俺のこと、諦めちゃったの?」
「……クソDJ……」
大人になって、色んなものが変わった。
例えば、名前を改名することは辞めた。
レオナルドとして生きていくんだと、思った。
親父と仲直り――――ではないけれども、向き合って、話すようになった。
フェイスはブラッドとの兄弟仲が良くなって、たまに笑って話すようになった。
別々の家に住むようになって、所属セクターも変わって、
でも、変わらないものだってある。
「……おまえ、おれのこと好きなの…?」
「――――っ、そうだよ」
「……嘘」
「……嘘じゃないし、そりゃあ、あの頃の俺は、今の俺から見れば捻くれてて、素直に好きだって言えなかったけど……」
「……」
「それでも、真剣におチビちゃんに振り向いて欲しくて必死だったよ」
「……うそ」
「嘘じゃないけど……」
だって、信じられない。
息を吹きかけるだけで、他の誰もを振り向かせられるような男がジュニアを好きだと言う。
そんなわけがないと思った。
だって、初恋は叶わないと誰かが言っていた。
その通りだと思ってたのに。
「……ねぇ、もう、俺のことは好きじゃない?もう無理?……俺にチャンスをくれない?」
なんて必死なんだろう。
人通りが少ない、とはいえもしかしたら誰かに見つかるかもしれないのに。
「……馬鹿だろ、てめえ」
「……おチビちゃん…」
「好きじゃねえよ」
「……そっか」
好きなんかじゃ足りなかった。
毎日、思いを募らせた。
どうか幸せでありますようにと、無事でありますようにと祈った。
こんな思いがただの「好き」であるはずがない。
「……おまえのこと、愛してる」
口にすれば陳腐かもしれない。
でも、そうとしか言えない思いを発した。
はじめて、相手に。
「……俺も」
ロマンスの欠片もない
。
でも、それでもよかった。
「――――おチビちゃんのこと、愛してるよ」
きっと、4年分、無駄にしたとか後で言うのかもしれない。
でも、それでも良かった。
だって遠回りしても、ちゃんと思いは届いたのだから。
One more chanceと同時期に考えたネタ酒で失敗しちゃうお話が好きなんですけど、これはちょっと違いますね。