深夜エスケープ

  ※クリスがもしもヒーローになっていたら、というifストーリー。
※バッドボーイネタ……のつもり

『うるせえな!一々電話かけてくるなって言っただろ!』

 がちゃんと音を立てて切られ、どうしたらいいのか解らない。
「クリス、どうかしたか?」
「……あ、あぁ……弟が……」
「弟?あぁ、そういえばアカデミーに通ってる弟がいるって言ってたな……」
 アカデミー時代から一つ年下ながらも多くの人に注目されていたブラッド。
 親友、と言える間柄ではないが、友人と呼べる人物ではあった。
「ああ……」
「……」
 そういえば、彼も同じようにアカデミーに通う弟がいるという。
「……なんだか、アカデミーで素行が悪いらしくて……それで、無理にヒーローにならなくていいって言ったらまた電話を切られて…」
 にいに、にいに、と笑って駆け寄ってきてくれた可愛い弟。
 でも無理してないだろうか。
 自分だって父親の存在はいつも重かった。
 ヒーローになった今も強大で足が竦むときがある。

「別に、ヒーローになんてならなくていいのに」
「……その気持ちは」
「うん?」
「よくわかる」
「……うん」
 ヒーローは憧れだけでやっていけるキラキラとした世界じゃない。
 なのに、レオは生まれた時からヒーローになることを決められていた。
 俺がヒーローを目指したように。
 勿論、俺は別にそれで後悔していない。
 していないけれど、でも、俺がなったからいい。無理しなくていい、とずっと言い続けているのにあの子は解っていない。
 この道以外だって、世界には沢山あるんだって教えてるのに。
「……兄心、弟知らずといったところか」
「なんだい、それ」
「いや……日本では似たようなことわざがあったな、と思いだしただけだ」
「あはは……ブラッドは面白いな」
 きっと彼も同じように弟に危ない目にあって欲しくないのだと思う。


 いっそ、ヒーローなんて諦めてくれたらいいのに。


 持ってる携帯をたたき割ろうかと思ったがそんなことは金の無駄だと思い、ベッドへと持っていた携帯を置いた。
「クソアニキ……」
「なぁに、またお兄さん?」
「そうだよ、アカデミーなんて辞めちまえだとよ」
 一々うるさいんだよな、とため息をついて、おれは隣にいる男の腕に戻る。
 素行が悪い、と言われたって別に誰彼構わず喧嘩売ってるとか、授業をサボっているとかそういうのじゃない。
 成績だっていつだって一位をとってるし、実技だって一番だった。
 ただ、息苦しくなって、たまたま寮から外に出ようと思った時に会ったのがこの男だった。
 本来ならば中等部と高等部の生徒なんて滅多に会わないけれど、何の因果か、満月の晩にこの男に会った。
 フェイス・ビームスと名乗った男を初めて見た時に思ったのは、何も聞かずに「……一緒にくる?」だなんて誘ってくる酔狂な男だという印象だった。
 不良に分類されるだろうに、所作が一々綺麗だった。
 後にアカデミーでも屈指の優等生で、ヒーローとして知名度の高いブラッド・ビームスの弟だと知るが自分にはどうでもいいことだった。
 ここにはいないビリー・ワイズも含めて3人でつるむようになったのはそれからすぐ後だった。
 なんでつるみだしたのか、なんて覚えてない。
 ただ、一番最初に連れていかれた適当なカフェのココアが美味しかったからだろうか。
 そして、ヒーローになりたいけれど、兄に反対されていること。
 自分の兄はやけに過干渉で、相手の兄は無関心だということ。
 自分は父親と兄が、相手は兄がヒーローだということ。
「名前、なんて呼べばいい?」
「好きに呼べばいいだろ」
「じゃあ、レオ?」
「……あいつと同じように呼ぶな」
 フェイスにそう呼ばれるのはなんだか嫌で、そういえば、
「うーん、でもジュニアだと、なんか…ああ、そうだ」
「なんだよ」
「おチビちゃんって呼ぼう」
「ふぁっく!なんだよ、それ」
「えぇ、だって、レオナルドだと長いし、レオは嫌だし、ジュニアって息子って意味でしょ」
「それは……」
「ちっちゃくてかわいいし、ぴったりじゃん」
「キィ――――――これからおれはでっかくなるんだよ!」
「あはは、そうだね、楽しみにしてる」
「くっそ―――!じゃあ、お前のこともあだ名で呼んでやる!」
 そんなやりとりから、何故か交流が始まってしまった。
 あいつはクラブでDJをやっていて、何度か連れて行って貰ったこともある。
 音楽についてはよくわからねえけど、あんまり好みではないけれど、それでもアイツが楽しそうにしてる姿を見ると、なんとなく、ああ良いなって思った。
 それとは正反対に女の子の扱いは得意とか言いつつ、実際は下手糞で、本当は嫌なのに断れないところがあるのも解った。



「フェイスくん、今日は私と一緒に遊んでよ」
「何言ってるのよ、今日は私と素敵な夜を過ごすんだから」


 嫌がってるじゃねえか、と見て解る程に嫌そうな顔をしてるのに、なんでこいつのこと好きとか言いながら気付かないんだ、と思った。
「……クソDJ」
「……おチビちゃん」
 口々になぁにこの子、とか言われてしまう。
 やだ、誰かのこども?とか聞こえたが、どうでもいい。


「今日はこの後、おれと一緒に過ごすってもう決まってるんだよ」
「……」
 そう言えば、目を見開いてでも、嬉しそうに
「うん、そういうことだから、ごめんね」
 と女に謝った。
 クラブを出て、寮に戻るか、とクソDJの手を引いた時だった。
「おチビちゃん」
「……クソDJ?」
 マゼンタしか俺の目に入らなくなった。
 そして、ファーストキスを奪われたのだと気付いた。
 その後、近くのモーテルに連れて行かれて、身を曝かれた。
 痛くて、恥ずかしいし、どうしようもなかったけれど、まぁいいかと思った。
 この関係がセフレなのか、恋人なのかは正直わからない。


   多分、最初は寂しかったのかもしれない。
 次に、似たもの同士だと思った。
 でも、今はどうなのか解らない。ただ、この手を離したくないとは思う。


 兄のコトは別に嫌いじゃない。
 多分、フェイスも同じだ。
 でも、勝手に「それが正しい」とまるで、ヒーローであることを諦めるように、人の夢を勝手に否定して自分の言いように扱おうとする態度が気に入らなかった。
「あいつのことなんてどうでもいいんだよ」
「……そうだね」
「んなことより、もう一回」
「アハ、足りなかったの?」
 しょうがないなぁ、と人に覆い被さってくる体温が気持ち良かった。
 この夜が終われば、また現実で戦わなきゃいけないんだからもう少しだけ夢をみたい。
 触れてくるこの男だけを今は感じていたかった。  


 

結構好きなパロネタ。もしも機会があれば続きを書きたい内容です。