※クリジュ(強姦)過去有り。
「おチビちゃんのことが好きだよ」
二人並んでベッドで寝転びながら映画を見て、エンドロールが終わってさぁ、寝るかという時だった。
突然、そんなことを言われたのは。
神様が丹精込めて作りあげたんだろうなと思う綺麗な顔をしている。
別にこいつの顔が好きなわけじゃなかったけれど、でも、それでも褒められる理由は解る。
クソ野郎だし、捻くれてるけど、大事に育てられたんだろうなと思う。
飯の食べ方とか、物の扱い方とか、ひとつひとつの仕草が綺麗だ。
おれとはまったく違う。
なんで、おれなんかを好きになったんだろう。
おまえなら男女問わず選び放題だろ。
「その、えっと……」
「ごめん、同室の、男にこんなこと言われても困るよね」
「いや、あの、」
「……でも、本気なんだ」
こいつになんていえばいいんだろう。
おれだって、クソDJのことは好き、だと思う。
同僚で相棒で、いつのまにか惹かれてた。
最初は本当にクソ野郎だなと思ったし、どうしようもない奴だと思ってたけど、本当は優しくて寂しがりやで甘えん坊なところがある不器用なやつだと思う。
正直、一瞬でもこいつの瞳に映るならと思った元彼女たちの気持ちがわからないわけでもない。
それくらいフェイス・ビームスという男は魅力的な人間だとわかってしまった。
でも、だからこそ、こいつの気持ちに応えるわけにはいかない。
「…おれも、おまえのことが好きだよ」
「っ」
嬉しそうな顔をするこいつを見て、自分も抱きしめてキスをして、全部隠し通せたらどんなに幸せになれるだろうと思った。
でも、こいつに不義理を働きたくない。
そのためにこいつにこれから酷いことをすると知っていても。
「だから、ごめん」
「……おチビちゃん?」
「―――おまえとは、付き合えない」
「……」
そう言うと、幸せそうに微笑む顔から、一気に感情が消えた。
綺麗な人間というのは、悲しむ顔も、怒る顔も綺麗なんだな、とこいつに会ってから初めて知った。
別にフェイスの顔が好きなわけではないが、こいつの表情は好きだと思う。
出会った頃の何もかも諦めたような顔ではなく、笑ったり怒ったり、拗ねたり、悲しそうにする表情は人形ではなく、フェイスが人間なのだと教えてくれる。
「……どうして」
「……」
「おれに恋愛感情を抱けないから?」
好きって相棒としてってこと?と遠回しに言ってるのだろう。
けれど、首を振る。
「そんなことない」
「じゃあ、ヒーローだから?ファンに申し訳ない?」
「……それは……ちょっとはあるけど、そうじゃねえよ」
「……じゃあ、どうして?」
「……」
「言ってくれなきゃ、諦められないよ」
そう言って握る手が温かかった。
このぬくもりをどうして好きになったんだろう、好きにならなければきっと幸せだった。
自分が不幸だなんて思わなかっただろう。
「……キースにも、ディノにも、誰にも言わないって約束できるか?」
「隠し事?別にいいけど……いま、二人が関係あるの?」
「……ないけど、言ったらきっと傷つくから」
「なにそれ」
「たぶん、お前も」
「……」
本当は、墓場まで持っていくような話だ。
「おれ、兄ちゃんに………そういうこと、されてた」
虐待だとか、強姦だと言ってしまえば、実は愛されていなかったんじゃないかと認めるのが怖かった。
でも、言葉を言いつくろったところで意味のないことも解ってる。
それでも、少しでも、ごまかすしかなかった。
「……え」
思ってもいなかった言葉に俺は耳を疑った。
おチビちゃんの兄は、すごくおチビちゃんのことを可愛がっているように見えた。
それこそ、過保護とも言えるように。
「アカデミーに入るちょっと前に、兄ちゃんの機嫌がわるかったのかな、時折叩かれるようになって」
「ちょ、ちょっと、待って…」
「母さんがいないところでされて、でも、言うの怖くて、転んだとか、喧嘩したとか最初はごまかしてた」
「……」
「でも、いつもは兄ちゃん優しかったから、自分が悪かったんだって思って……」
だから信じられなかった。
でも、それが本当ならば、自分がブラッドにされたことなんて非ではない話だった。
「……たぶん、でも親父も母さんも薄々気づいてたんだと思う。アカデミーの中等部、別に全寮制じゃないのに寮生活を薦めてきたし…」
「……」
「最初はクソ親父だからって思ってたけど、今考えたら、多分おれのこと、思っててくれたのかもしれない」
「……っ」
父親はおチビちゃんがヒーローになるなら実際は傷つこうがなんだろうがどうでもいい、そう思っていたのだときっと考えてたのだろう。
でも、実際は愛していて、おチビちゃんに「おまえは大好きなお兄ちゃんから八つ当たりの道具なんだ」って思いこまさないためだったのかもしれない。
「母さんもやけにアカデミーに入学を薦めてきたし、……家とかも、あんまり出ないようになったから」
「……」
そこには兄への負い目もあったのかもしれない。
ライト家の事情は俺たち兄弟よりもずっと複雑だ。
そして、何よりも俺とブラッドの問題は、俺には理由はわからないけれど少なくともブラッドの方には何かあるのだろう、と思う。
でも、おチビちゃんの家の問題は、おチビちゃんのお父さんとお兄さんの問題で、おチビちゃんは関与していない。
あくまでおチビちゃんは被害者でしかないのだ。
「……アカデミーの合格が決まった日、兄ちゃんに……おか……っ」
「……言わなくていいよ」
犯された、と口にしようとして、でも耐えきれなくて手で口元を覆った。
「……っ…」
仲の良い兄弟だと思ってた。
でも、考えてみればおかしなところは幾らでもあった。
例えば、おチビちゃんはお兄さんを見れば駆け寄るけど、抱き着いたり、触れたりすることはなかった。
まぁ、おチビちゃんも一応17才だしな、と思ってたけど、考えたら俺やキースやディノとは手を繋いでたじゃないか。
他にもおかしなところは幾らでもある。
だって、おチビちゃんはあんなにお兄さんと仲良いのに、絶対に夜、タワーに戻ってくる。
おチビちゃんなら泊ってきてもおかしくないのに。
そもそも、バンドすら終わった後にそのまま帰ってきてたじゃないか。
「……おまえに言われて、L.O.M.のことがあって改めて思った。きっとうち、おかしいんだ」
「それは……」
そんなことはない、とは言えなかった。
だって、外から見たらどんな理由があったって、兄が弟に「あの人は自分たちに興味がない」だなんて言ってはいけない。
まるでおチビちゃんのお兄さんはおチビちゃんを支配下に置きたいようだった。
心配性、過保護といえば聞こえはいいけれど、実際のところ、おチビちゃんに対するものは洗脳教育といってもいい。
「……おまえのこと好きだよ」
酷い環境だと人の家のことながら思う。
なんてことをしてくれたんだと。
でも、それでも、この子は優しくて強くて、格好良くて―――きっと生まれながらのヒーローなのだ。
俺の前に現れた一番星は、いつもきらきらしていて、そんな過去を持っていても、人を慈しんで、手を伸ばす。
「だから、おまえのこと、おれの事情に巻き込めない」
いつも身勝手で、人のことを振り回すのに、なのに肝心なところで頼ってくれない。
最後の最後でおれをのけ者にしようとする。
「……やだよ」
「……ちょ、」
「もしも、おチビちゃんが俺の事をなんとも思ってないなら我慢できるし、諦められるけど、そうじゃないのにどうして」
「どうしてって……お前に言っただろ」
「……確かに、おチビちゃんの家はおかしいし、変だと思うけど……」
「っ……」
「でも、俺はおチビちゃんが好きなわけであって、別におチビちゃんのお父さんやお兄さんと付き合うわけじゃないでしょ」
「……それは……そうだけど……」
「……実家が嫌ならさ、研修が終わったら俺と家を借りたり、一軒家を建てて住めばいいじゃん」
「は?」
「ねぇ、おチビちゃん」
「……」
「俺と家族になってよ」
「っ……」
「俺もまぁ、アニキとはあんなんだし、別に実家ともべったりなわけじゃないし」
「……ブラッドは……確かにガミガミ暴君だけど、それだけじゃないだろ…」
「うん、まぁ、そうだね……でも、おチビちゃんも嫌じゃないでしょ?」
「まぁ、嫌じゃねえけど……」
ずっと、無意識にお兄さんに遠慮してたと言っていた。
自分のことを放り投げて、多分おチビちゃんはお兄さんの心を守っていた。
でも、それなら、この子は誰が守るんだろう。
知ってる。
この子は自分一人の足で立って、そして誰一人味方がいなくたって前に進める子なんだって。
でも、それと俺がこの子を守りたいと、隣に立ちたいと思うのは別の話だから。
「おチビちゃんが嫌でも、俺はずっと口説くし、いいって言ってくれるまで諦めないから」
「……」
「だから」
この美しい蒼天と曇天を宝石にして嵌めたような瞳は、どれだけ傷ついても輝きが増すばかりだ。
その輝きが愛しくてたまらない。
「おチビちゃんの隣に、俺を置いてよ」
「……」
「好きだよ、おチビちゃん」
抱きしめて耳元で囁けば、「……ばか」と小さい声が聞こえた。
くりあさんって処女厨ですよねって言われて「そんなことないわい!」と思ってジュニアを非処女にしてしまいました…(すまぬ)
でも、関係ないけどクリスお兄ちゃんは無意識とはいえ、ジュニアに洗脳教育してたところあるのと、
ジュニアの事を純粋に愛してたわけじゃないんだろなと思って地獄のライト家概念で書いてしまいました……
元々は燧火でグレイに相談せずに兄に相談したら犯されるルートを考えていてそれが元ネタです。すまんね、クリスお兄ちゃん……