もしも、明日キミに会えたなら

「バレット」
 トリガーが呼んだ。
 穏やかな表情だった。
 元の世界へと戻る。その途中、タイムマシンが少しずつ壊れて、否、消えていく。
 未来は変わった。
 トリガーが言っていたように、レジスタンスはきっとない。
 だって、もう誰かに管理される世界などないのだから。
 見れば自分の体もなくなっていくのが解る。
 ああ、消えるのだ。
「お前に、会えてよかった」
 ずるい。
 バレットは心底思う。
 ずっと貰ってばかりだった。
 姉が亡くなってどうしたらいいのか解らない自分に手を差し伸べてくれた。
 今を変えると彼は言った。
 姉と自分のような人間がいない世界を作ると。
 だから、彼の為の剣になると決めたのだ。
 でも、それも今日で終わり。
 自分達はもう、いない。
 トリガーも、バレットも、レジスタンスも存在しない。
 それは幸せなのか、不幸なのか解らない。
 でも―――
 トリガーが笑っているのなら、例え消えるのだとしても良いと思った。
 泣くべきなのかもしれない、それでもトリガーが良いと思うなら、バレットはそれでよかった。
「違う、バレット」
「トリガー?」
 首を小さくトリガーが振る。
 消える、消える、ゆっくり消える。
 もう、自分の指先も見えやしない。
 でも、お互いの顔ももう見えない中、トリガーの声が――――


『生まれ変わるんだよ』


 聞こえた、気がした。




「いつも、誰を探してるの?」
 ずっと、誰かを探していた。
 両親が亡くなって、姉と2人で過ごしてきた。
 大変じゃないとはウソでも言わないけれど、それでも2人で楽しく生きてきた。
 でも、ぽっかりと穴が開いた気がいつもしていた。
 誰かを、いつも探している。
 知らない、誰かをずっと。
 それがいないと、自分が自分じゃないような、そんな気持ちだった。
 何なのかは解らない。
 でも、絶対に見つかる、そう信じていた。
「……もう、キョロキョロしないの!」
 困ったように姉が口にする。
 折角買い物してるのに、と言いながらしょうがないなと笑う姉の顔。
 その声につられて、自分も笑う。
 信号がやがて青色に変わる。
 スクランブル交差点を渡ろうと歩き出した、時だった。


 太陽に照らされた、若葉色の髪。
 薄紫色の双眸。
 心臓が跳ねる。
 たった一瞬、お互いに横切った瞬間。
 脳が囁いた。


『――――見つけた、と』


 ずっと探していた人。
「ちょ…」
 姉が立ち止まる様子に驚く。けれど、そんなことは気にしてられなかった。
 追いかけなければ、そう思い  


「バレット」
「トリガー!」

 お互いに振り返った。




 

SF好きなので過去(現在)を変えてしまえば、未来ではそれはなかったことになると思っています。
でも、アカシックレコードには記憶されているので、ふとした瞬間に思い出す可能性はあるんじゃないかと思っています。