風太が風邪を引いた。
「……風太、病院に行こう…な…?」
「……うぅ…」
はぁはぁと布団の中で肩で息をする幼馴染を絋平は心配そうな顔をして見つめる。
「いやばい……」
病院で診察してもらって、薬を処方してもらえばいい。
それだけのこと。
けれど、病院嫌いの風太は首を縦にふらない。
「風太……」
「病院はすかん……」
「……」
その意味を知ってるから絋平も無理に連れて行けない。
記憶はなくても、覚えてるのだ。
病院が大事なモノを亡くした場所だと。
小さい頃、風太は病院が大好きだった。
否、違う。
病院に行けば、朔太郎がいるから大好きだったのだ。
風太は朔太郎が大好きだった。
毎日、病院に行って、どうでもいい話をずっと話していた。
朔太郎が退院して、また遊んでくれるのだと信じていた。
退院したら、兄ちゃんにサックスを弾いて貰う。
退院したら、兄ちゃんと駄菓子屋に行く。
退院したら、一緒に野球をする。
退院したら、
退院したら……
退院したら―――――
風太はいつだって続くと、否違う。
朔太郎が治ると信じていた。
自分だって信じていた。
病気が悪化していると聞いても、死ぬだなんて思いたくなかった。
目の前から消えると少しでも考えたらそうなってしまう気がして恐かった。
でも、現実は自分達の気持ちなんて一切関係ないのだ。
朔太郎は死んだ。
自分達を置いて。
「……風太」
「絋兄ちゃん…?」
「早く治れよ……」
でも、朔太郎は、絋平に風太を残していった。
生きる理由をくれた。
だから恐い。
いつか、朔太郎が風太を連れて行ってしまったら、その時自分はきっと生きていけない。
「……もちろんばい!」
永遠なんてない。
ずっと続くものなんて一つも無い。
でも、この手にある存在だけはどうか奪わないでほしい。
もしも、奪われたら、俺は息の仕方すら、わからなくなってしまうんだ。