こども

「風太の誕生日って明日なのか?」
「そうばい!5月6日生まればい!」
「えぇ~~~、なんか風太って子供って感じだから子供の日生まれのほうが似合うのに~」
「そんなことなか!オレは立派なおとなたい!」
「えぇ?」
「うっそだーーーーー」


 キャッキャと子供たちがはなまる商店で店番をしている風太にちょっかいをかける。
 商店街には大きなこいのぼりがかかっていて、大和はもぐもぐと柏餅を食べ…否、吸い続けていた。
「だって、大和と楽しそうに兜かぶってさっきからおれたちとあそんでるじゃん~」
「やって、楽しか!な、大和!」
「ああ、オレのベーゴマが優勝だ」
「やまと~!つええ~」
「米のことしか考えてないくせに~」
「ギターのことも考えてるぞ」
「本当にだいがくせいかよ~!みさきにーちゃんやあおいにーちゃんに比べてこどもくせ~」
「そんなことなかよ!おれが一番おにいちゃんばい!」
「うっそだーーーーー!」
「本当ばい!」
「そういえば、確かに風太が一番最初に誕生日が来るな」
「えぇ~~」
「マジかよ~~」
 子供たちに囲まれて、同年代かのように思われているのか楽しそうにする風太。
 それどころかもしかすると小学生にも幼稚園児と思われているのかもしれないと思う。
 それくらい、風太と大和は子供たちと混ざっても何も違和感がなかった。
 いつまで子供っぽくて、かわいい自分の弟分。
 ずっとずっと、自分が守ってやらなきゃいけない存在。
 そう、絋平は思っている。
 だが―――



「……何してるんだ?風太」
「ん~…」
 
 お風呂に入って、さぁ寝るかと思って部屋に行くと、堂々と絋平の布団に入り込んでいる風太。
「…こぉ、にーちゃん…」
「……部屋を間違えたのか?」
 部屋に連れて行ってやるかと抱き上げてやろうとすると、
「おれ、こどもじゃなかよ……」
 ぐっと手を伸ばした絋平の手を握った。
「……」
「こどもじゃなかよ…」
 そう言って、とろんとした空色の瞳が絋平を見つめた。
「……風太」
「もぉ…おと……」
 そう言ってまた意識を落とす。
「…」
 今日、小学生だって0時まで起きていられるぞ、と思いながら自分の手を握りしめる風太に絋平は笑みがこぼれる。
 ちらりと見るともうすぐ風太の誕生日だ。
 明日でもう20歳だというのに、風太はいつまでも子供のままだ。
 そういえば、昔、絋平の誕生日を一番に祝う!と我儘を言って自分の家に泊まりに来たこともあった。
 結局、スヤスヤと眠ってしまい、しかも起きるのが遅いものだから絋平の家族や朔太郎と岬、あおいに先に言われて「いちばんさいしょにいいたかったばい!」と悲しそうに言ったことを覚えてる。
 本人は大人だというが、絋平からしてみればずっと子供でいてほしい。
 こんな無邪気な笑顔で眠る風太の背中にのしかかるものはあまりにも重たすぎるもので、誰もそれを変わってやることはできない。
 そして、そうしてしまったのはほかでもない自分だ。
 あんなに頼まれたのに逃げ出してしまったから。


  「ずっと、こどもでいてくれよ、風太」


 大人になったら、きっと絋平の前からいなくなってしまう。
 成長する風太を見るのが嬉しいのに、それと同時に変わってしまうのが悲しい。
 風太がいるから、自分は強くなろうと頑張れるのに、この手から離れてしまったら、遠ざかってしまったら、自分は―――。


「……おやすみ、風太」
 そういえば、風太は大丈夫と言いたげにふにゃりと微笑む。
 時刻は23:59
 あと10、9、8……
「お誕生日、おめでとう風太」
 カウントをして0秒になったと同時に告げる。


 風太の誕生日が始まる。


 いつかくる、風太の、独り立ちまであと何年、何日、自分といてくれるのだろうか。


 

死ぬまで一緒にいてくれ