兄が死んだ。
雨の日だった。
大好きな兄ちゃんが死んで悲しくて辛くてどうしようも苦しくて、
でも、それ以上に絋姉ちゃんが辛そうだったのが覚えてる。
『絋平のこと、頼むな。風太』
そう言って頭を撫でてくれた兄ちゃんの意図は解らん!
だけれど、風太にとってその約束は凄く、すごく大事なものだった。
兄ちゃんと一緒にいられるような気がして、下手糞だけれど兄ちゃんのサックスを吹くようになった。
『サクタロー』と名前をつけた。
そして気付いた。
兄ちゃんっぽいことをしたら、絋姉ちゃんが喜んでくれることに。
兄ちゃんが好きだって言ってくれた髪の毛を切った。
絋姉ちゃんやあおいが結んでくれる髪の毛は好きだったけれど、ただでさえ兄ちゃんに似てるからきっと短くしたらもっと似てる筈だ。
絋姉ちゃんの好きなバンドは曲は好きだけれど、ライブハウスの歴史とか、成り立ちとかはよくわからんかった。
頑張っても身長は兄ちゃんみたいに高くなれない。
でも、せめて男の子っぽくなれるようにスカートを棄てた。
別にズボンは嫌いじゃないし、動きやすかった。
膨らんでいく胸を隠したくて、胸を潰した。
形が悪くなると言うあおいの言葉は無視した。
『女』の自分を棄てれば棄てるほど、朔太郎に近づく。
でも、風太はどこにあるんだろう?
どれだけ頑張っても、絋姉ちゃんの目に映るのはきっと神ノ島朔太郎で、永遠に神ノ島風太はこない。
それでも、絋姉ちゃんが喜んでくれるのが嬉しい。
だって、絋姉ちゃんは、優しくて、格好良くて、綺麗で、温かくて、怒るとやっちゃこわかけど、誰よりも大好きなひと。
だから、絋姉ちゃんが喜んでくれるなら、元気になってくれるならそれが一番嬉しい。
あの日、病気になったのが朔太郎じゃなくて、風太だったなら、きっと絋姉ちゃんは今でも笑って、楽しそうにしてくれてたのに。
そしたら、大好きな兄ちゃんは今でも生きてたのに。
「……そげんこと、かんがえてもしかたなかね~」