クリスマスはいつも親から貰っていた。
サンタクロースは親なのだと周囲に教えられたのはいつからだっただろうか。
それを風太に言うと、目を丸くしてきょとんという顔をされた。
「大和はご両親からしかプレゼントを貰ってなかと?」
「というか、サンタクロースは親だろう?」
「そんなことなかよ!」
にこりと笑ってぶんぶんと風太は首を振る。
「ばってん、オレの枕元はいつも親からとサンタクロースからの二種類あったたい!」
「二種類…?」
「そうたい!」
にこにこと笑う風太。
しかし、風太の言葉に嘘は感じられない。
「……絋平さん…」
本当か?と顔を向けると、「ああ、本当だ」と言う。
「風太はサンタからずっとプレゼントを貰ってるんだ」
「……そうなのか…」
「やけん、20歳になったらプレゼントは貰えなくなるから、今年こそサンタを捕まえるばい!」
「え」
「……サンタを?どうしてだ?」
「そんなん、ずっとプレゼントをくれてありがとうって言うばい!」
ニコニコと笑う風太に、大和も目を丸くする。
「大和もきっと今年はサンタさんをくれるたい!」
「……そうか、ああ、そうだといいな…」
ほわほわと微笑む風太が言うと、きっとそうなのだろうと思うから不思議だ。
「そうたい!大和も一緒にサンタさんを捕まえるばい!」
「え?」
「は?」
「一緒にサンタさんにありがとうって言うとね!」
風太に「な?」と言われたら、最後、大和はもう頷かない選択肢はなかった。
「ああ、捕まえよう!」
「……」
早坂絋平は困った。
何故なら、彼こそが風太のサンタクロースだからである。
亡くなった親友である朔太郎からお願いされたことは、風太の笑顔を守ることだった。
そして、その笑顔を守る為に朔太郎がしてきた事は多い。
病気の体に鞭を打って、そうしていたのはおそらく風太の為ではなく、彼自身のためである。
その理由は痛い程わかる。
どこまでも透き通った、純粋無垢な風太。
風太の心に染みが出来ない様に、汚れないように、大切に大切にしている行為はどれだけ非難されても心地良いものだった。
頭の中では解っている。
本当はこの世界には汚いものも、良くないものも、沢山あるのだと教えた方がいいのだと。
それでも、風太が歩く道が綺麗であるように、風太の笑顔がずっと見れるように過ごす時間は幸せだった。
『朔兄ちゃん、見て見て!サンタさんから今年は―――』
嬉しそうに、朔太郎から貰ったプレゼントを見せていた風太。
その笑顔を曇らせたくなくて、同じように続けていた。
「…よし!」
「似合うぜ、こ…サンタ!!」
「……」
「あおい、どうかしたのか?」
「う、ううん…」
「さっき言ってたバイトの時のことか?」
「うん……あの子にもちゃんとサンタが来るといいなって思って」
「ちゃんときっと来るさ」
「そうだね……まぁ、こ…サンタさんみたいな人はいないだろうけどね」
「そうか?」
目を開けてもバレないようにサンタ衣装を着て、髭をつけて、無駄に大きな白い袋を手に風太の部屋へと入る。
大和と二人で「サンタを捕まえる!」と何を捕まえる気なのか解らない大きな虫網を手に、二人はぐーすかぐーすかと眠っていた。
ちなみにまだ時計は0時も回っていない。
19歳とは思えない健康優良児である。
「ハッピークリスマス、風太」
小さく声をして、枕元に二つプレゼントを置く。
すると、むにゃむにゃと寝言を言う風太が、手紙を持っているのが見える。
「……ぷっ」
本当に無邪気で可愛いと心から思う。
かつて友人がしていたように、思いのまま頬に唇を寄せたい気持ちになるが、早く部屋を出ないと風太はともかく、大和を起こしてしまう。
去年から出来た新しい弟分の枕元にも絋平はプレゼントを置いて颯爽と部屋の外へと出て行く。
「…ふう」
「お疲れ、絋にい」
「ああ、―――と二人にも」
がさこそと白い袋から二人へのプレゼントを渡すと、目を丸くさせて遠慮するが、無理矢理持たせると二人とも照れたように笑った。
大和と差をつけているわけではないけれど、二人にも二人分。
それが自分と―――誰からの分かなんてきっと二人も解っている。
部屋に戻り、サンタクロースの衣装を脱いで、そして汗を流して、歯磨きをして、そのままベッドに入る。
目を閉じれば、遠くで、しゃんしゃんと鈴の音がしたような気がした。
それはきっと、サンタクロースなんてロマンティックなものではなくて、絋平の心の、記憶の中の、ただの感傷だと理解している。
それでも夢の中で逢えたら、と願ってそのまま暗闇に目を落とした。
だって、そうすれば、
「……絋兄ちゃん!サンタさんからプレゼントが来たばい!!」
幸せの夢から覚めたときに、一番みたい笑顔が見れるから。