10 years after

 10年前に戻れるとしたら自分はどういう人生を送るだろうか。
 もう少しマシな人生を送るのだろうか、と心底考える。
 喪いたくない命があった、ずっと後悔し続けていた。
 自分が上手く立ち回れば、一番、大切な命を失わずに、一番愛している人を壊さずに進めたのかと思った。
 それでも、絋平は、友を喪う事こそ悲しみはするが、もう立ち止まらないと決めた。
 LRフェスの後、結局、自分達は長崎に帰ってきた。
 歌を唄うことも、楽器を奏でる事も、全て辞めたわけじゃない。
 ただ、ちゃんと再出発するには彼に話したいと思っていたからだ。
「朔太郎」
 不思議だ。
 ずっと東京で話しかけた時、否、亡くなってからずっと話しかけても答えてくれなかった。
 けれど、今なら親友が当たり前のように応えてくれるような気がした。
『ずっと応えてたのに、絋平が気づかなかっただけばい!』と大笑いしているんじゃないかとさえ思う。
「……」
 ずっと約束を守ろうと思っていた。
 それが、朔太郎への贖罪なんだと考えていた。
 でも、今は違う。
「朔太郎、悪いな」
 否、本当はずっと前からそうだった。
 約束なんてなくても自分はずっと、あの笑顔を守りたかった。大切でたまらなかったのだから。
「風太は貰っていく」
 怒るだろうか、それとも笑ってくれるだろうか。
 どっちかは解らない。
 それでも、あの手を離さないと、守るのだと朔太郎じゃなく自分自身に誓った。
 あの手を握って自分は10年後、否100年後だって一緒にいたい。
 そして、そんな自分の隣できっと風太は笑ってくれる。その綺麗な空色の瞳できっと自分を見つめてくれることだろう。
 喜びも、悲しみも、きっと今度は二人で抱きしめて生きていける。  二人じゃ駄目な事は、仲間と分かち合えば良い。もう、一人で背負う事も守ろうとする理由だってない。
 弱くてもいいんだと、でも、強くなろうと未来へと歩き出したから。
「……風太?」
 隣を見れば、風太が強く腕に抱きついた。
「どうしたんだ?」
「今、反対されてん離さんと言うたばい!」
 そう言って「べっ」と子供っぽく舌を出す仕草に絋平は笑顔を浮かべた。
「……そっか」
「それから、天まで届くごと頑張って歌うって伝えたばい!」
 にっこり笑う風太を見て、絋平はその手を握った。  



 ずっと朔太郎の為に、と思っていた。
 でも、あの日々で手に入れた、否、思い出した大切なこの存在を自分はずっとこれからも守っていこう。
 10年後、どんな風にこの子を好きでいるかは解らないけれど、それでも解る事はたった一つ。  
 その時、きっと、傍で、自分はこの子に微笑んでいるだろう。