「なぁ、風太」
「なんね、絋兄ちゃん」
「結婚するか」
「……え?」
貰ったラブレター。
受け取った告白。
送られてきたメール。
寄せられる目線。
どれも嬉しいものではあったけれど、それでも絋平はいつでも断っていた。
もしも、これがあおいや岬だったら絋平は「気になってる子ならつきあった方がいいぞ」というだろう。
けれど、自分はそうしない。
だって、風太のことがある。
こういえば風太を理由にするなと言われそうだが、これが絋平が選んだ道だった。
風太が笑っていられるよう、誰にもあの笑顔を奪わせないように護っていく、それこそ一生をかけて。
この感情がもう懺悔なのか執着なのか、あるいは加護なのか絋平自身にももはや解らなかった。
いや、本当は解ってる。
自分は風太に恋をしている。
愛してると言っても過言ではない。
笑っていてほしいと想うのは真実だが、布団に体を縫いつけて思うがまま揺さぶってやりたいと思う事がないわけではない。
その唇に口づけて、体中をむさぼりたいという気持ちもある。
でも、弟のようなものだと、『彼』の代わりに護らなければならないのだと、大切だからそっと宝箱に、籠に入れて誰にも触れられないようにしてやりたいという気持ちも嘘じゃない。
結局これが償いだから傍にいるのか、あるいは愛してるから隣にいたいのか自分でももう解らない。
ぐちゃぐちゃになった感情の中、ただ一つ解っているのは「風太が好き」だという感情だけは真実だった。
だからずっと、自分は風太の傍にずっといる。
これはもう誓いのようなものだった。
そんな気持ちがばれているのか、岬とあおいに言われてしまった。
「絋にいはずっと結婚しないで風太の面倒みる気なの?」
「絋にいだって幸せになっていいだろ」
大事な弟分に気を遣われているのだと思うと自分もまだまだだなと思った。
でも、自分はきっとこの先大切な人を作れないだろうし、作らない。 だったら、いっそ風太と結婚してしまえばいいんじゃないかと思った。
そうすれば、合法的に守れるし、世間から白い目で見られなくても良い。
今日日、まだ珍しいが同性婚がないわけでもない。
「絋兄ちゃんと?」
「ああ」
そう言うと風太は目を丸くして、それから何かを考えていた。
「それじゃあ、絋兄ちゃんとサクタローと三人でずっと一緒にいるとね?」
「ああ、ずっと三人だ」
「っ……」
そう言うと風太は嬉しそうに笑ってくれた。
そして嬉しそうに絋平に抱きついてくる。その体を絋平は抱きしめればお日様の匂いがした。
風太の手には大事に握られているサクタローがいる。ずっと、ずっと三人で。
その響きは酷く魅惑的なものに思える。
「風太」
名前を呼べば笑顔に、ああ自分は間違ってないのだと絋平は微笑んだ。