壊れかけの太陽がどうかこれ以上壊れることがないように、大切なものをこれ以上奪わせないように守ってきた。
長崎にいた時も、サクタローのことを聞いてくる人間はいた。
そのたびにどうにかやり過ごしてきた。
「そがんことなか!嬉しかよ!サクタローも喜んどっけん!」
「サクタロー?」
「オレたちの大事な仲間ばい!ほら!」
「名前をつけてるんですか?その―――」
過保護と言われようが、なんだろうが、ずっと、そしてこれからもそうしていく。
風太を傷つけそうな人間か、そうでないか。
冗談ではなく、この世の中には『二種類』しかいない。
この男は、一体どちらか。
絋平は注意深く見つめていた。
「僕はあなたに興味があります。神ノ島さん」
嬉しそうに笑う風太に対して警鐘を鳴らす。
この男はどちらだ?
風太のことを本当に好意で興味があるのか、違うのか。
けれどこんなことになるだなんて思いもしてなかった。
絋平はあの時手分けして、だなんていわなければよかった、と。
四人いたのだから二人ずつ行動していればよかったと公開した。
大和が見つかって、風太を今度は探そうとしていた時だった。
サクタローを、道路に投げ込む鞍馬が見えた。
東京の街中は休むもなくずっと車が走っている。
そして、車に投げ去られた『サクタロー』が弾かれそうになった時、絋平は慌てて駆け出す。
「…………っ!!!」
このままでは、このままでは風太が完全に壊れてしまう。
「あっ……………」
あの明るい笑顔が、自分たちの太陽が、粉々に壊れ切ってしまう。
「ああぁあああぁあああぁ!!」
「うん、素敵だね、さぁ、もっと―――」
そうならないようにしなければ。
車のクラクションが鳴り響く。
自分がひかれるかも、だなんてことは一つも考えなかった。
そんなことよりも、風太の悲鳴を止めることのほうがずっと大切だった。
「…………あれ?」
風太と、諸悪の根源に近づけば、風太を壊そうとした人間は飄々とした表情でこちらを見て不思議そうな顔をしていた。
「くっ……」
「早坂さん?」
「鞍馬……」
ああ、警鐘がなっていた通りだ。
こいつは―――
「絋……兄ちゃん?サクタローは……サクタローは……」
「大丈夫。サクタローは無事だ。車にぶつかってもいない。どこもケガしてないから安心しろ。ほら……」
「ほんとね……ほんと……?サクタロー……」
安心したようにサックスを抱きしめる風太に対して、悪びれもない顔は絋平の感情を逆なでするだけだった。
「ああ、キャッチしてしまったんですね……残念だな。もう少しで、もっと面白いものが―――」
「……てめえ」
一発殴るだけでは気が済まない。
風太に二度と近寄らせないようにしないといけない、そう思っているのに目の前の男はただ挨拶をするかのように穏やかに笑うだけ。
脅しなんて一つもきかない。
だめだ、こいつは、「そんなに強くつかんだら、襟元が締まって苦しいですよ、早坂さん」
「……なんのつもりだ?サクタローを……風太をどうする気だった?」
「壊すつもりでした。どちらも」
「てめえ……」
こいつは遠ざけなければならない人間だ。
なぜ自分は気づかなかったのか。風太とこいつをまた会わせてしまったのだと後悔した。
「僕は見たいだけだよ。大切なものものを失ったとき、人はどんな感情を見せるのか。きっとそれは、僕の知らないものだから」
「ふざけんな!!」
風太は疑うことを知らない、誰でも風太にしてみれば『いい人』。
だからこそ、自分がそのやさしさに付け込む人間を排除しないといけない。
絋平はただ目の前の『敵』を排除することだけを考えていた。
風太が、これ以上傷つかないように。
「風太から……俺たちからこれ以上、なにも奪わせねえぞ……!」
俺たちから『太陽』を奪わせないように。