XXX OUT

「アレな本?なんねそい?」
「……げほっ、うん、まぁ。絋にいに聞けば教えてくれるだろ」


 あおいが出て行った理由もわかり、長崎まで追いかけて、結局怒られてしまったけれども安心して、なんやかんやで東京のシェアハウスまで戻ってきた。
 安心すると、風太はふと思い出す。
 あおいが出て行ったヒントがないかと部屋を探していた時、岬が言った言葉だ。
 絋にいなら教えてくれる。
 その言葉を思い出す。
 疑う事なんて一つもなかった。
 今まで絋平が風太に教えてくれない事など一つもなかった。だから、今回も聞けば素直に教えてくれると信じて疑わなかった。
「絋にいちゃん」
「どうした、風太」
「アレな本ってなんね」
「…………は?」
「アレな本ってなんね」
「……」
 だが、絋平の反応は風太が予想していたものとまったく違っていた。
 いつものように甘やかすような笑みを浮かべて「それはだな……」と言う、そんな予想とはまったく別のもの。
 口をぱくぱくとさせているのに言葉を発しない。
「……風太」
「なんね?」
「一つ聞くが、それ、誰に聞いた?」
「岬と大和ばい!」
 隠す事ではなかったので素直に言えば「そうか……岬と大和が……」とぶつぶつと絋平は言う。
「さぁ、教えてほしか!」
「言えるか!」
「……絋にいちゃんも知らんと?」
「いや……それは……」
「岬は絋にいちゃんなら教えてくれるって言うとったばい」
「……」
 ジーっと絋平を見つめるその瞳に、岬と内心、絋平は大きなため息は吐きたくなる。
 同時に長いつきあい故に解ってしまうのだ。
 教えないでいれば、「なんね、なんね」と朝からずっと張り付かれるであろうということくらい。
 現にこの前、あおいが曲を恥ずかしいからという理由でボツにしようとした時にしようとしていたし、小さい頃からする行動が何一つ変わらない。
 少年のまま、本当に大人になったような子。
 男友達に借りたことはないのか、と思うがこの純粋培養具合を知っている絋平としてはきっと、誰も貸さなかったんだろうなと思う。
 実際、そういった下ネタを風太と話したこともなかった。
 兄分として少しは教えておいた方がいいかという気もするが、風太にはまだ純粋でいてほしいという気持ちもある。
 もう18だと解っていても、だ。
「……恋愛写真集だ」
「恋愛写真集?なんね?」
 嘘は言っていない。
「恋人同士でやることが写真で載ってるんだ」
「岬や大和はそがんもんみて楽しかと?」
「まぁ、好きな人は多いんじゃないか」
「ふーん」
 そういえば、興味をなくしたようだった。
「確かにあおいはロマンチックだから、岬があると思ってもおかしくはなか」
「ははは……」
 すまん、あおいと乾いた笑みを浮かべて、絋平は否定も肯定もしない。
「……絋にいちゃんも」
「ん?」
「持ってると?」
「……いや、俺は持ってない」
 そういうと少しだけ安心したように風太は笑った。
「ならよか!」
「……」
 その笑顔にちょっとだけ期待してしまう。
 いや解っている。
 風太のその表情は仲間外れではないと安心する笑みだと解っているし、そもそも、アレな本がどういう意味か解らない風太が嫉妬をするわけがないということも。
 風太が自分を兄分としてしか慕っていないという事実も。
 それでも、期待してしまうのだ。
 自分も、あり得ないと解っている可能性を。
「気はすんだか?」
「すんだばい!」
 自分をごまかすように風太のお日様色の髪の毛をそっと撫でる。
 いつまでも、どうか、自分は彼の良き「兄ちゃん」でいられますようにと自分に言い聞かせるように願って。
 目の前の想い人で「アレ」な事を何度も考えた事実を必死で塗りつぶすように。